がん免疫療法コラム

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高齢者のがん治療について〜手術・薬物療法・放射線療法〜

  1. はじめに

前回に引き続き高齢者のがん治療について解説していきます。

がん治療の主な目標は、がんを治癒することです。しかし、高齢者の場合には、治療による生活の質(QOL)の悪化の可能性も考慮しなければなりません。

 

  1. 治療による利益と不利益

高齢のがん患者は、複数の併存症をもっている割合が高く、臓器機能が低下していることも多いため、がんの治療により合併症が発生しやすい、副作用が遷延しやすいなどの傾向があります。その一方で、全身状態が良好である高齢者においては、若い患者と同様の治療効果が期待できるため、高齢という理由だけで治療の対象から除外すべきではないと、米国のガイドラインでも指摘されています。

 

  1. 手術

高齢者のがん手術においては安全性が最も大きな問題になります。例えば、術後肺炎や、手術を契機に心筋梗塞や脳卒中などを発症する可能性が高まります。また、手術などの影響で体力の低下が著しく、寝たきりになってしまう、認知症が悪化するなど、若い世代の患者さんではみられない状況が生じやすいです。

そのため、高齢者手術では、切除範囲やリンパ節郭清など手術の程度は多少手控えられる傾向にあります。その結果、高齢者手術の術後合併症や手術関連死亡は、非高齢者に比較して同程度であるとする報告が多いです。さらに、がんの手術後の再発に関しては、高齢者の手術も非高齢者の手術もほとんど差がないとされています。しかし、一方では長期的に見ると、他のがんやがん以外の病気による死亡(肺炎など)が多いことが明らかになっています。

このことからも、高齢者ではがんの再発と同等もしくはそれ以上に、栄養状態や筋力増強などの全身状態の改善に努める必要があります。また、前回に述べた高齢者総合的機能評価(CGA: Comprehensive Geriatric Assessment)は、このがん患者の長期的ながん以外の死亡に関係する最も重要な因子であり、介入を行うかどうかの判断材料になります。

 

  1. 薬物療法・放射線療法

一般に放射線療法や抗がん剤治療は身体への負担が少ないといわれます。しかし、実際はそのようなことはなく、これらの治療の副作用が強く出現し、副作用からの回復もかなり遅れることがまれではありません。容量によっては副作用で重篤な合併症や死亡にいたる場合もあります。

したがって、高齢者ではこれらの非手術療法でも減量が必要になります。手術と同様に、これらの治療でも高齢者では減量をしても予後は変わらないという報告がされています。

また、手術が不可能な進行したがん患者さんで、より若い世代であれば抗がん剤治療による延命が期待できる状況であっても、高齢者の場合には、副作用による全身状態の悪化を勘案し、薬物療法は実施せず、支持療法や緩和ケアを行い、残された余命での生活の質(QOL)の向上を図るという選択がなされれることがあります。

 

  1. まとめ

高齢者に積極的ながん治療を実施する場合、治療に伴う副作用、合併症、後遺症などの危険性が大きいことを認識する必要があります。治療による侵襲と再発の可能性のバランスを考慮し、よい意味での治療の”手加減”が必要になります。

 

出典:Aging&Health No.78 2016

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