がん免疫療法コラム
高齢者のがん治療について〜総論〜
- はじめに
超高齢社会を迎えた本邦では、高齢者の増加に伴って、高齢のがん患者さんも増えています。がんに対する治療法は、大まかに手術、放射線、薬物療法の3つあります。どのがん治療も体にとっては侵襲となるため、高齢者では特に負担が大きく、治療法の選択に悩むことが多いです。さらには、前立腺癌や甲状腺癌など、進行の遅いがんでは治療そのものを行うかどうか根本的な部分で悩んでしまうこともあります。
今回は、高齢者のがん治療の総論を解説していきます。
- 高齢者の定義
高齢者が何歳以上を指すか、明確な定義はありません。しかし、社会通念上は65歳以上が高齢者で、健康保険では65歳以上~75歳未満を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と区分されています。
高齢者のがん治療においては、年齢だけでなく身体の状態を考慮することが大切です。70歳代前半の方であれば、標準的な治療に十分耐えられることがあります。逆に、若くても他の病気を抱えている場合は、慎重に治療を検討する必要があります。年齢だけではなく、患者さんの身体や精神状態、病期、ステージ、がんの種類に応じて個別の治療方針を立てる必要があります。
- 高齢者のリスクの評価
実際は臓器機能の基準をクリアしても手術合併症が実際にはよくあることから、高齢者ではより高次かつ総合的な身体機能や脳機能の衰えについても問題視されるようになりました。老年医学の領域で確立した高齢者総合的機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)というものがあります。これは病態把握に加え、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を詳細に評価し包括的な医療を提供する考え方です。
身体機能、併存症、薬剤、栄養状態、認知機能、気分、社会支援、老年症候群(転倒,せん妄,失禁,骨粗鬆症など)を評価し、問題があれば多職種での介入をするというものです。
これによって日々の診療では確認しづらい高齢者特有の問題、緩和治療の必要な患者などを拾い上げること、がん治療による有害事象や予後予測が可能になると考えられています。
- 高齢者のがん治療について
一般的に高齢者は生活機能障害を抱えることも多く、脆弱性を評価し、それに対する治療介入を行った上でがん治療を開始することが望ましいです。
がん治療には、科学的根拠に基づいて推奨される「標準治療」があります。しかし、高齢者の場合には標準治療が確立されていない場合やその治療が適していないこともしばしばあります。そのような場合は、担当医の経験と判断によって高齢者がより安全に受けられる治療法が選択されます。
- まとめ
高齢者のがん治療においては、年齢だけでなく全身状態をよく理解し、個別の治療方針を検討することが重要です。
次回以降は高齢者のがん手術、薬物療法、放射線療法について詳しく解説していきます。
出典:第82回がん対策推進協議会 高齢者がん医療Q&A