がん免疫療法コラム

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がん高額薬剤の費用対策

はじめに

コロナ禍では医療資源や医療崩壊のような言葉が連日報道を賑わせました。このコロナ禍が長期化するとともに、医療に使えるリソースにも限りがあることだけでなく、医療や公衆衛生を無条件で優先してしまうと飲食業界や観光業界などの他の分野にしわ寄せが来ることが認識されるようになりました。こうした事情を経て、医療経済学の視点から「限りある医療資源の最適分配をすること」の重要性がより考えられるようになりました。

 

議論がされている薬剤

日本やヨーロッパの国々は国民皆保険制度のある国家です。この恩恵によって国民の医療レベルは高く維持できてきました。しかし、2015年以降に高額薬剤が次々登場し、全て国民皆保険制度でカバーされるのはどうか?と風潮が変わりつつあります。

オプジーボ(免疫チェックポイント阻害剤)、ソバルディ・ハーボニー(いずれもC型肝炎治療薬)は全て2015年に登場しましたが、これらにはそれぞれ100-300万円/月の費用がかかります。単価✕潜在使用者数の分だけ財政的影響が生じるため、保険システムの持続可能性の観点からも問題視されていました。

また、最近では希少疾病の治療薬であるキムリア(白血病治療薬・2019年)、ゾルゲンスマ(脊髄性筋萎縮症・2020年)などが挙げられます。前者の単価(一回投与)は3,300万円・後者は1億6700万円と非常に高額な薬剤です。日本では未承認ですが、βアミロイド抗体薬であるアディカヌマブ(2021年6月米FDA承認)と類似薬のレカネマブ(2021年1月米FDA承認)も高額な薬剤として知られています。

 

国民皆保険制度について

勘違いしやすいかもしれませんが、国民皆保険制度の原則は「全員に無料で全ての医療」を提供することではありません。あくまで、「全員に安価で必要な医療」を提供することが目標になります。このように本来の国民皆保険制度では全ての治療を同じ条件でカバーすることまでは想定していません。そのため、公的医療システムでの給付に何らかの制限をかけることは妥当だと考えられるようになってきています。

 

費用対効果をどうやって評価するか?

こうした高額薬剤の費用対効果評価は、薬剤の費用と効果を均衡させるための重要な指針となります。その評価基準となるのは、既存の治療法と比較した費用と効果の差、つまり増分費用効果比(ICER)です。効果を評価する際の「ものさし」としては、QALY(質調整生存年)が使われます。しかし、単純に費用やこれらの指数だけで評価することは適切ではなく、生産性損失や家族への影響なども考慮に入れるべきだと考えられています。

 

最後に

がん治療薬を含め、高額な薬剤はこれからも登場してくるでしょう。これらの「費用対効果の評価」と「治療の価値の評価」は異なることを認識した上で、医療の多面的な側面を考えることが重要です。答えの無い問題ですが、限られた医療資源の中で効果的で公平な医療提供を実現するための視点を持つことが求められています。

 

出典:Jpn J Cancer Chemother 50(4):421-427, April, 2023

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