がん免疫療法コラム
癌の骨転移について2
はじめに
今回はがんの骨転移のメカニズム・治療について解説します。
骨転移のメカニズム
骨転移はがん細胞の血行性転移によって生じます。骨破壊の主役はがん細胞によって刺激された破骨細胞になります。破骨細胞はRANKL(receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)という因子の刺激によって分化・融合した多核巨細胞になります。骨基質には成長因子が含まれているのですが、骨基質の融解によってそれらが放出され、がん細胞が増殖し、骨転移がさらに進行します。このように、がん細胞と骨転移の間には“悪性サイクル”が存在しています。
骨転移の発生に関する因子のうち、現時点で薬物治療のターゲットになっているのはこのRANKLになります。
骨転移の治療
骨転移の治療には①薬物療法、②放射線療法、③手術療法(整形外科的治療)の3つがあります。病態や予後に応じて最適な治療を選択していくことになります。
ただし、骨転移の中でも脊髄麻痺がある場合は原則48時間以内に緊急手術や放射線照射を行わなければ、恒久的な麻痺に発展する可能性が高いオンコロジック・エマージェンシーであり、迅速な治療を要しますので、注意が必要になります。
それぞれの治療について詳しく見ていきましょう。
薬物治療
現在、ビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体であるデノスマブの二つの骨修飾薬(BMA:bone modifying agents)が本邦で保険承認されています。これらはいずれも破骨細胞を標的とし、アポトーシスを誘導し、破骨細胞の活性化を防ぐ機序を利用しています。
いずれの薬剤も治療目標は、疼痛コントロール、機能の維持・回復、骨関連事象(SRE:skeletal related event)発生の減少させることです。
ただし、これらの薬剤には特有の有害事象が知られています。腎機能障害、低カルシウム血症、顎骨壊死、骨痛、インフルエンザ様症状などがこれまでに報告されています。中でも顎骨壊死の頻度は低いですが、重篤な病態として知られています。口腔衛生不良状態、歯周病、不適合義歯、抜歯、インプラントが危険因子になります。
ビスホスホネート製剤は1990年代後半に、抗RANKL抗体は2010年代になり開発・登場した薬剤ですが、近年では新規治療開発も進んでいます。①休眠状態のがん組織由来細胞(DTC:dissociated tumor cells)、無症候性の骨微小転移とそのニッチをターゲットにした治療法、②がん細胞と破骨細胞間の悪循環をターゲットにした治療法が考えられています。
最後に
今回は、骨転移のメカニズム・薬物治療について述べてきました。
放射線療法・手術療法については次回、解説いたします。
出典:Jpn J Cancer Chemother 50(3):283-286, March, 2023