がん免疫療法コラム
小児がんに対する陽子線治療
小児がんは珍しい病気
日本では年間約2500件の小児がん発症例があるといわれています。その半数は白血病やリンパ腫などの血液系がんであり、残りの半数は脳脊髄や頭頸部、体幹部などに発症する固形がんです。小児がんは通常のがんと比べ、脳腫瘍や肉腫、胎児性腫瘍などがあり、治療法や抗がん剤に対する副作用も個人差が大きい傾向があります。近年では、化学療法や外科療法、放射線療法を組み合わせることで7〜8割ほどの治癒率を得ることができるようになりました。
陽子線治療は小児の成長に影響が少ない
小児では成長や第二次性徴などで放射線療法の影響を受けやすいため、成長への影響を考慮する必要があります。
標準治療で使用される放射線療法は、X線を照射することでがん細胞を攻撃します。X線は体内に少しずつ吸収されながら透過する性質があるため、X線の通り道となる組織は放射線の影響を受けます。
陽子線治療で使用される陽子(水素原子核)は加速器により照射され、体内に照射されます。陽子線は設定されたエネルギーに応じて一定の深さで停止し、組織にエネルギーを伝える性質があります。
そのため、陽子線治療ではターゲットとする腫瘍に集中して陽子線を照射することで健康的な細胞への影響を最小限にすることが可能です。健康な細胞への影響が少ないため、小児の成長に対するリスクを低下させることも期待できます。
陽子線治療は限定的に保険適用されている
成人の場合、陽子線治療は先進医療に指定されており、約300万円ほどの自己負担が必要であるため、経済的に負担も大きい治療法です。しかし、平成28年4月から小児がんに対する陽子線治療が保険適用となったため、経済的負担が非常に軽減されました。
標準治療と並行することが重要
陽子線治療は、従来の放射線療法よりも腫瘍に対する効果は1.1倍ほどであり、劇的に効果がある治療法ではありません。しかし、小児がんの放射線療法による治療で起きる2次がんのリスクが抑えられることが報告されています。また、胃や大腸などの消化器官に発生したがんに対して陽子線治療を行うと潰瘍を起こすことがあるため、外科手術や抗がん剤による化学療法などで対応する必要があります。がんを死滅させたとしても、全身に作用する抗がん剤を用いた化学療法を行うことで、全身への転移を予防できます。陽子線治療を行う場合でも、標準治療である化学療法や外科手術も併用することが重要です。
参考URL
Proton beam therapy for childhood malignancies: status report
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20514614/
小児・AYA世代の腫瘍に対する陽子線治療診療ガイドライン2019年版
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/guideline/aya_gl2019.pdf