がん免疫療法コラム
先進医療「陽子線」「重粒子線」の違いは?メリット・デメリットもあわせてご紹介
陽子線治療と重粒子線治療とは、がん治療において大きな期待が寄せられている、先進医療の一つです。どちらも高エネルギー粒子を照射して、がん細胞を破壊するという共通の仕組みを持つ治療です。先進医療と聞くと、メリットばかりのように思われるかもしれませんが、陽子線治療と重粒子線治療にはデメリットとなる要素も存在するのです。
今回は、陽子線治療と重粒子線治療の違いを解説します。また、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
メリットだけでなく、デメリットをしっかり理解したうえで、治療を検討するようにしましょう。
陽子線治療と重粒子線治療の違いとは?
この項目では、陽子線治療と重粒子線治療の違いをそれぞれ詳しく解説します。
陽子線と重粒子線は使用している元素核が違う
陽子線治療と重粒子線治療は、がん治療の新しい手法として注目されています。どちらもがん細胞を高エネルギー粒子で照射し破壊するという方法を採用しています。これらの粒子線は、X線と違い、がん細胞にエネルギーを与えるときにそのエネルギーが拡散しにくく、照射以外の部位への影響が少ないのが特徴です。
二つの治療法の大きな違いは、使用する原子核にあります。陽子線治療は水素の原子核を使用するのに対し、重粒子線治療は質量が12倍も大きい炭素の原子核を使用するため、より強力なエネルギーでがん細胞を攻撃することが可能です。
重粒子線は細胞に対するエネルギーが高い
重粒子線治療は、陽子線治療と比較して、細胞へのエネルギー供給が3〜4倍強力であるため、特に骨軟部腫瘍や骨肉腫のような通常の放射線治療では効果が得られにくかったがん種に対しても、良好な効果が期待されます。
しかし、この高い殺傷能力は、健康な細胞に対しても影響を及ぼすリスクがあるため、治療を行う部位や患者様の状態によっては、重粒子線治療が適用できないケースも存在します。治療選択の際は慎重な判断と十分な注意が求められます。
陽子線治療は照射範囲が広い
陽子線治療は、X線を用いた従来の放射線治療と比べて、1.2倍のエネルギーを持つものの、がん細胞に選択的に照射することができるため、健康な細胞への影響が少ないという特徴を持っています。この選択性の高さにより、広範囲のがん細胞を対象に治療が可能となり、重粒子線治療よりも幅広い応用が考えられます。さらに、エネルギーの適度な強さと選択性の組み合わせにより、他の放射線治療法に比べて副作用が少ないという大きなメリットがあります。
陽子線治療と重粒子線治療それぞれのメリット・デメリットを解説
陽子線治療と重粒子線治療には、それぞれメリット・デメリットが存在します。
以下に、詳しくお伝えします。
陽子線治療のメリット・デメリット
陽子線治療は、がん治療の新しい選択肢として注目されています。そのメリットとして、外科手術や薬物療法、従来の放射線治療よりも身体的負担や副作用が低い点が挙げられます。特に放射線の影響を受けやすい臓器の近くの腫瘍、X線治療が困難な腫瘍、あるいは大きな腫瘍にも効果的です。治療は無痛で、皮膚に傷跡も残らず、日常生活を継続しながらの通院治療としても適しており、社会復帰も容易です。
一方で、陽子線治療にはデメリットも存在します。全身に転移しているⅣ期のがんやリンパ節転移がある患者様には適応困難となることがあります。また、胃がんや大腸がんは治療の対象外です。そして、最も大きな課題として、この治療は「先進医療」として認定されており、保険適用外となるため全額が患者様の自己負担となります。「先進医療」とは、新しい医療技術を保険診療と併用して提供する制度で、一定の基準を満たす医療機関でのみ行われます。
重粒子線治療のメリット・デメリット
重粒子線治療は、がん治療における先進技術として知られています。一般の放射線治療やX線治療と比較すると、その殺傷効果は非常に大きく、照射回数を少なくできるのが最大の特徴です。また、短期間(1日から3週間)での治療が可能となっており、通院治療も可能です。これは特に、高齢者や体力が衰えている患者様には大きなメリットとなります。
炭素イオンである重粒子線は、水素イオンを使用した陽子線と比べ、質量が大きく、それによりがん細胞への破壊力も強力です。具体的には、陽子線治療の2〜3倍の殺傷効果を持ちます。深部にあるがんや、低酸素領域のがん、そして骨肉腫のような特定のがんに対しても効果を発揮します。
治療の際には、1日1回、週に3〜5回のペースで、合計1〜40回繰り返し行われることが多いです。1回あたりの治療時間は、15〜30分程度とされ、平均すると3週間程度の治療期間となります。この期間は、他の放射線治療と比較しても短いと言えます。
ただし、重粒子線治療にもいくつかのデメリットがあります。一つは、治療費の問題です。健康保険の適用は限られており、多くの部位では先進医療としての取り扱いで、治療費が約300万円と非常に高額です。さらに、重粒子線治療に必要な装置や施設のコストは、陽子線治療よりも高くなるため、治療を提供する施設や専門家も限られています。
疾患や副作用などを考慮して使い分けることが重要
陽子線治療は、大きながんや身体の深部のがんに対して効果的であり、重粒子線治療は放射線に耐性を持つがんへの効果が期待されています。しかし、これらの治療方法は消化管に対するがんには適用できない場合があるため、注意が必要です。特に腸管にダメージを与え、穴を開けるリスクが懸念されています。通常の放射線治療と比べて健康な細胞への影響は少ないと言われていますが、それでも副作用は存在します。そのため、患者様の状態、がんの位置や種類、副作用のリスクなどを総合的に考慮し、最適な治療法を選ぶことが大切です。
さらに、がん治療の選択肢として免疫療法、特に6種複合免疫療法も検討する価値があります。免疫療法は、体内の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃するアプローチであり、放射線治療と組み合わせることで、さらなる効果的な治療が期待されています。
参考URL
重粒子線治療と陽子線治療,国立がん研究センター東病院粒子線医学開発分野長,秋元哲夫
https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/upload_docs/140658-1-23.pdf