がん免疫療法コラム
がん悪液質とは?
- はじめに
がん悪液質(あくえきしつ)とは、がんの進行に伴い栄養状態が悪化し、衰弱した状態を指す言葉として用いられます。がん悪液質と呼ばれる病態は食を医療の本質と説いたヒポクラテスの時代から知られていました。英語では“cachexia”といいますが、これはギリシャ語のkakos+hexis(悪い状態)に由来します。
がん悪液質の認知度はまだ低く、今後も啓蒙活動が必要であると考えられています。今回は、がん悪液質について2回に分けて解説していきます。
- がん悪液質とは?
がん悪液質とは簡単に言うと“がんで食欲が減退している状態”を指します。体重減少、食欲不振、倦怠感が主な症状です。正確な定義もなされており、2006年に米国で開かれた会議において、「基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で、脂肪量の減少の有無にかかわらず、骨格筋量の減少を特徴とする」病態と定義されています。がん種によって悪液質の頻度は異なり、胃癌・膵臓癌を始めとする消化器がんや肺がん、骨軟部肉腫、婦人科がん、頭頸部がんで多く見られる傾向があります。
- がん悪液質は治療可能?
がん患者の生命予後やQOLを悪化させると言われています。がん患者の50-80%に発生して、がん死亡の20%を占めると推定されています。
2010年の欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)においては前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つのステージに分類されています。前悪液質の診断基準は明確ではありませんが、悪液質への介入はできるだけ早期から開始するように推奨されています。近年は治療介入によって改善しうる病態だという認識に変わってきています。
- がん悪液質の病態
がん悪液質のメカニズムの全容はまだ明らかではありませんが、近年様々な因子の関与が報告されています。がん悪液質の発症には生体反応として産生される炎症性サイトカインやがん細胞自身が産生する因子の関与が示唆されています。代表的な因子としてグルチココルチステロイドや腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-6、成長分化因子(GDF)-15、GDF-11、副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)などが知られています。これらの多種多様な因子が関与しており、エネルギー代謝の異常と骨格筋の分解をもたらします。また、脂肪組織や骨格筋だけでなく、脳、肝臓、骨、膵臓、心筋、消化管といった全身の臓器に作用することで悪液質が惹起されると考えられています。
- さいごに
今回はがん悪液質の定義や病態について解説しました。最近、その病態の解明が進んでおり、新たな治療も登場してきました。次回はがん悪液質に対する治療について解説していきます。
参考文献
京府医大誌131(10),815-822,2022. doi:10.32206/jkpum.131.10.815