がん免疫療法コラム
花粉症とがんの関係
- はじめに
春になると花粉症に悩まされる方も多いのではないでしょうか。今回はこの花粉症と、一見関係なさそうな「がん」との関係に着目していきたいと思います。
- 花粉症とがんの共通点
花粉症とがんの共通に関係する因子は自己免疫になります。花粉症は花粉を抗原として、第1段階でヒトの免疫システムが体内に抗体を作ります(感作)。そして抗体がある程度蓄積された状態で抗原が入ってくると強い免疫応答が起こる(発症)という順序で起こります。免疫が低下している状態では免疫応答の力が弱くなり、花粉症も起こり難くなることが知られます。免疫低下は加齢によっても起こりますが、年をとると花粉症が治ることがあるのも免疫応答の低下ではないかと言われています。一方、加齢でがんが増えるのは免疫低下のせいだと言われており、がんと花粉症の関係性についてこれまで疫学的な調査がなされてきました。
- 花粉症を持つ人はがんになりにくい⁉
我が国での研究結果では、群馬県内の40~69歳の男女8796人を8~15年間追跡し、がんの死亡リスクと花粉症の関連を調べたところ、花粉症の人では52%低かったと報告されています。
ただし、注意しなければならないのは、この研究結果にはバイアスがかかっている可能性があるということです。例えば、「花粉症の人ではタバコを吸っている人の割合が少なく、結果としてがんが少なかったが、実は花粉症かどうかはがんの死亡率とは関係なかった、タバコを吸っているかどうかが全てだった」ということがあり得ます。また、花粉症が自己申告による診断であった点にも注意が必要です。
- アレルギー疾患とがんの関係性
また、他のアレルギー性疾患との関係では以下のような報告もありました。
①スペイン国立がん研究センターの研究では、(花粉症と同様のアレルギー疾患である)喘息との関係を調べた結果、喘息の人がすい臓がんにかかるリスクは喘息のない人に比べ36%低かった。
②米国南カリフォルニア大学のチームの研究では、(花粉症と同様のアレルギー疾患である)アトピー性皮膚炎などのアレルギーのある人は、ない人に比べ、大腸がんを発症するリスクが14%低かった。
というように、アレルギー疾患のある方でのがん発症率が低いという報告がされています。
しかし、スウェーデンから13万人以上のデータを集めて報告した研究では、むしろ、鼻で生じるがん、精巣がん、前立腺がんなど、花粉症の方に特定のがんが多い傾向が報告され、花粉症の人はがんになりにくいという仮説に一石を投じています。
- 最後に
花粉症とがんを関連付ける報告は他にもありますが、ほとんどが症例・対照研究と呼ばれるタイプの研究で、関連性は示すことができても、因果関係を示すことはできません。すなわち、「花粉症があるから、がんが減るかどうか」までは分かりません。現時点では正確なメカニズムはまだ不明であり、花粉症とがんの関係を完全に理解するためには、さらなる研究が必要だと考えられています。
出典:
Clinical & Experimental Allergy, 46(8), 1083–1089. doi: 10.1111/cea.12638
Int. J. Cancer: 135, 2397–2403 (2014) doi: 10.1002/ijc.28873