がん免疫療法コラム
がん免疫療法の耐性について
はじめに
がん免疫療法の中でも免疫チェックポイント阻害剤はさまざまな癌腫で効果が証明されています。しかし、これは全例で有効であるわけではなく、単剤による治療では20-30%にのみ有効であるとされています。また、長期にわたり腫瘍増殖を抑制する効果が認められても、やがて耐性を獲得し腫瘍が再増悪してしまうケースも見られることが明らかとなり、近年問題となっています。これは一次耐性(初期耐性)に加えて、一度有効性があったにもかかわらず耐性化する獲得耐性が関連していると言われています。この耐性メカニズムを解明すれば、治療の有効性を高めることができるため、現在さまざまな研究が行われています。
一次耐性(初期耐性)について
がん細胞の特定の遺伝子や経路の発現または抑制により、腫瘍微小環境内の免疫細胞の浸潤や機能が障害され、一次耐性に至ると考えられています。このような腫瘍は「冷たい腫瘍(cold tumor)」と呼ばれています。それに対して「炎症性腫瘍(hot tumor)」と呼ばれる腫瘍もあります。こちらは腫瘍微小環境への免疫細胞の浸潤と活性化の痕跡を示し、一般的には免疫療法への感受性が高いとされています。
非炎症性の腫瘍で障害されている基本的な段階(抗原提示、浸潤および排除)を再度確立することは、免疫療法の可能性をさらに向上させる重要な戦略です。現在、腫瘍内に炎症を生じさせ、抗腫瘍免疫に対する感受性を増大させることを目指して、研究が進んでいます。
獲得耐性について
獲得耐性(acquired resistance)とは免疫療法に対して腫瘍がはじめは反応するものの、ある期間が経過すると反応しなくなることを指します。T細胞機能の喪失、がん抗原提示の減少によるT細胞による認識の欠如、または腫瘍におけるエスケープ突然変異体の発生など、複数の因子によって、獲得耐性を生じる可能性があります。結果的にがん細胞は、T細胞の疲弊と呼ばれる過程によって細胞傷害性T細胞を機能的に抑制し、免疫系に破壊されることを回避します。このようなメカニズムが報告されていますが、抗PD-L1抗体に対する耐性機構はまだ詳細はあまり明らかになっていません。
最後に
免疫療法に対する耐性機序を解明することで、患者さんに適切な治療選択肢を提供することができると考えられています。それと同時に、耐性メカニズムを克服するような併用療法の開発もさかんに行われています。現在、①免疫チェックポイント阻害剤同士の併用、②分子標的治療薬との併用療法、③CAR-T細胞療法との併用など、新たな治療法の可能性が模索されています。また、効果予測バイオマーカーの探索も行われており、これによって特定の治療法に対する治療効果を個々の患者さんが得られるか否かについて予測・判定可能となることが期待されています。
参考文献:
Cell. 2017;168(4):707-723.
N Engl J Med 2022; 386:24-34.