がん免疫療法コラム

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大腸癌と口腔内細菌叢2

  1. はじめに

前回に引き続き、大腸癌と口腔内細菌叢について解説していきたいと思います。

日本では大腸癌罹患数および死亡数は増加傾向にあります。これは食生活や生活習慣の西洋化に伴い腸内細菌の構成が変化すること、細菌が抗腫瘍免疫応答を抑制し大腸癌の発生・進展を促進することが原因だと言われています。

今回紹介するのはフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)という歯周病に関連する口腔内常在菌になります。歯周病の指標の1つである歯周ポケット*2の深さが4mm以上の割合は、45歳を越えると50%以上になり、多くの日本人が歯周病を抱えていると言われています。歯周病は糖尿病や動脈硬化、あるいは脳卒中などの全身性の疾患と強く関連しており、歯周病への関心はより高まっています。

 

  1. 大腸癌とフソバクテリウム・ヌクレアタム

近年、この口腔内常在菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸がんの発がんや進行と関連があるとする報告が相次いであり、大腸がん研究で非常に注目される細菌として知られるようになってきました。

まず、この細菌は大腸癌の原発巣組織中で見つかっており、口腔内の菌株と同一である可能性があることが報告されました。さらに、フソバクテリウム・ヌクレアタムが見つかった大腸癌では癌組織中の低い T 細胞浸潤密度、低分化腺癌、不良な予後との関連、さらに大腸癌細胞における免疫チェックポイント分子 PD-L1の発現と癌組織中の FOXP3陽性 T細胞の関連が見出されています。このことからもフソバクテリウムが原発巣大腸癌の進展に寄与していることが示されています。

 

  1. 大腸癌肝転移との関連

大腸癌に関連した死亡の主な原因は遠隔転移であり、大腸癌の遠隔転移および再発形式として最も頻度が高い臓器が肝臓になります。肝臓は門脈と肝動脈からの血流を介して細菌にさらされ、T細胞、マクロファージなど多くの免疫細胞が存在します。大腸癌の肝転移巣組織中に多くのT細胞が浸潤している症例は抗癌剤の感受性が高く、予後良好であると言われています。このフソバクテリウム・ヌクレアタムは大腸癌の肝転移にも影響しているという報告があります。

その報告によれば非癌部の肝臓組織に比べて大腸癌の肝転移巣にフソバクテリウム・ヌクレアタムがより多く認められました。さらに大腸癌肝転移巣にフソバクテリウム・ヌクレアタムが存在する症例は、肝転移巣切除後の全生存率が不良でした。フソバクテリウムは抗腫瘍免疫応答を抑制し、大腸癌の肝転移形成にも関与していると考えられています。

  1. 最後に

このようにフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸癌に深く関連しているとされる報告が相次いでおり、治療標的としても注目を浴びています。歯周病治療を行うことにより、便のフソバクテリウム・ヌクレアタムが減少したという報告もあります。歯周病治療が大腸がんの発がんや進行に対する新規予防法の開発につながる可能性があります。そのような観点からも日頃から歯周病にならないように口腔内環境を整えておくように心がけることは重要だと考えられます。

 

参考文献:
Gut. 2019 Jul;68(7):1335-1337. doi: 10.1136/gutjnl-2018-316661.
Sci Rep. 2021 Dec 9;11(1):23719. doi: 10.1038/s41598-021-03083-4.

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