がん免疫療法コラム
革新的ながん治療薬2:革新的ながん治療薬2:抗体-薬物複合免疫賦活薬(iADC)について
- はじめに
前回に引き続き、近年注目されている革新的ながん治療薬について解説をしていきます。
免疫チェックポイント阻害剤を含む主要ながん免疫療法の課題は、免疫細胞が浸潤しづらいがん微小環境にある非炎症性腫瘍に対して効果を得にくいことと言われています。承認されている免疫チェックポイント阻害剤が単剤投与で有効性を示すのは、様々ながん種においてわずか20%程度と言われています。
- 抗体薬物複合体(ADC)について
これまでに抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)という薬剤が作られており、実際に臨床応用されています。これは生物学的に活性な細胞障害性薬物とそれに結合したモノクローナル抗体からなる複合分子であり、健康な細胞を温存しながら腫瘍細胞だけを標的として殺傷する事を目的としています。日本で承認されているADCは、急性骨髄性白血病の治療薬である抗CD33抗体にカリケアマイシンを結合させたマイロターグⓇ(ゲムツズマブオゾガマイシン)や、抗ヒト上皮成長因子受容体(HER)2抗体であるトラスツズマブを使った乳がん治療薬のエンハーツⓇ(トラスツズマブデルクステカン)などがあります。
- 抗体-薬物複合免疫賦活薬(iADC)について
さらに近年ではADCをさらに発展させて抗体-薬物複合免疫賦活薬(Immunostimulatory Antibody-Drug Conjugates:iADC)の創製が積極的に取り組まれています。このiADCは免疫を活性化する免疫賦活剤に加え、免疫原性細胞死を誘導する抗がん剤を抗体に結合させた薬剤となります。非炎症性腫瘍に効果的かつ効率的にアプローチできるiADCは既存のADCをはるかに超えた可能性を秘めるとされています。がん細胞を直接傷害できる強力な抗がん剤と、特定のがん細胞に対する免疫応答を局所的に刺激しうる免疫賦活剤の両薬剤を、抗体の特定の部位へ正確に結合することが可能になります。このような作用機序によってより強力な抗がん作用を有し、既存の治療法が有効でない症例にも効果を発揮することを目標としています。
- iADCの創薬に向けて
本年6月には大手製薬会社であるアステラス製薬と米国のSutro Biopharma社がiADCの共同研究・開発に関する戦略的提携契約を締結したと発表されました。アステラス製薬は抗体や低分子化合物の領域における研究、開発、商業化に関する強みを持ち、一方でSutro社は抗体と薬物を結合させる高度な技術と、候補となる抗体および結合可能な抗がん剤、免疫賦活剤を持っており、この両社の強みを組み合わせて次世代モダリティのiADCの治療薬創製を目指すとしています。
- まとめ
今回はiADCについて解説しました。臨床応用までには至っておりませんが、基礎研究の段階でもiADCの有用性が報告されています。このように基礎研究と産業の両方から新薬の創薬が期待されています。
出典:
PDL-1 Antibody Drug Conjugate for Selective Chemo-Guided Immune Modulation of Cancer. Cancers (Basel). 2019;11(2):232. Published 2019 Feb 16.
https://www.evaluate.com/node/17967/pdf