がん免疫療法コラム
がんは遺伝するの!?〜遺伝性腫瘍について1〜
- はじめに
「がん家系」という言葉を聞いた方も多いのではないでしょうか。親や兄弟ががんに罹ったから、自分もそうなるのではないかと不安になる方もおられるかもしれません。
多くのがんは生まれてから後に遺伝子に生じた変異が原因であり、基本的には次の世代に遺伝することはありません。しかし、がんの原因の約5~10%が、遺伝要因が深く関わる遺伝性のがん、すなわち遺伝性腫瘍(症候群)といわれています。今回は遺伝性腫瘍と呼ばれる遺伝するがんについて解説していきます。
- がんの原因は?
がんの発症には遺伝要因と環境要因が関わっていると考えられています。環境要因としては食生活・運動習慣・飲酒・喫煙などの生活習慣に加えて、感染症(ウィルス/細菌感染)・紫外線などの外的要因も含まれます。その一方で、遺伝要因としては生まれつきがんに関わる遺伝子に変異があると、次の世代にその変異が受け継がれる、すなわち「遺伝する」可能性があります。
- 遺伝するがんのメカニズム
細胞は体細胞と生殖細胞の二つに分けることができます。体細胞は筋肉や骨、神経や血液など体の多くの部分を占める細胞です。これらの細胞に含まれる遺伝子に生まれた後で変異(体細胞変異)が生じたとしても、次の世代に受け継がれることはありません。これに対し、生殖細胞は男性では精子、女性では卵子に相当する細胞です。そのため、もし生殖細胞に含まれる遺伝子に変異(生殖細胞系列変異)がある場合には、次の世代に受け継がれる可能性があります。ほとんどの遺伝性腫瘍では、がんになりやすい遺伝子の変化は、親から子へ、性別に関わらず50%の確率で(母または父から)引き継がれます。なお、注意していただきたいのは、がん細胞自体が遺伝する事はないということです。また、がんになりやすい遺伝子の変化を受け継いでも、必ずがんを発症するわけではありません。
- 遺伝性腫瘍(症候群)とは?
遺伝性腫瘍の場合、一般のがんに比べて以下の特徴があります。若くしてがんを発症する、がんを何回も発症する、血縁者に同じようながんを発症した人がいることです。ただし、がんに罹患する方が多いご家系の場合でも、同じ生活習慣を共有することで後天的にがんの罹患者が多くなるというケースも考えられます。
遺伝性腫瘍には多くの種類があり、原因となる遺伝子によってがんの発症部位(臓器)や発症する確率は異なります。代表的な遺伝性腫瘍症候群としては遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC) 、リンチ症候群、家族性大腸ポリポーシス(FAP)、MEN(I型,II型)、網膜芽細胞腫、リー・フラウメニ症候群などが挙げられます。
- まとめ
今回はがんの中でも遺伝性腫瘍について解説しました。次回は、遺伝性腫瘍の診断、各疾患についてみていきたいと思います。
出典:一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会