がん免疫療法コラム
癌と新型コロナウイルス感染症1
- はじめに
このコロナ禍は一般社会全体をすっかり変えてしまったといっても過言ではありません。今回は癌と新型コロナウイルス感染症の関係性に着目して、2回に分けて解説していきます。
- がん患者さんのリスク
ウイルスに対する免疫には全ての細胞が持っている自然免疫と免疫細胞による獲得免疫の2種類があります。がん患者でも自然免疫はあまり落ちないと考えていますが、骨髄抑制をもたらす化学療法などによってウイルス感染、増悪化のリスクが増大すると言われています。
これまでにがん患者におけるリスク評価に関して500を超える論文が発表されています。実際にこれらによると、一部のがん患者は新型コロナウイルス感染症に感染しやすいこと、より重症化しやすく死亡率も高いことが示されています。
特に高齢者、男性、1年以内にがんと診断された患者(がん患者全体の約1割)ではさらにリスクが高いという報告があります。疾患別でみると、血液腫瘍(白血病、非ホジキンリンパ腫)、肺がんなどで特にリスクが高いと報告されています。
- 新型コロナウイルス感染症にかかりやすくなるメカニズム
ウイルス感染を受けた細胞から分泌されたインターフェロンなどにより免疫細胞が活性化し様々なサイトカインを介して獲得免疫が構築されます。重症化した若年者などからウイルスRNAを認識する自然免疫系の受容体Toll-like receptor, TLR7に変異がある人が見つかっており、免疫における重要性が明らかになっています。
このようにサイトカインが過剰に分泌されるとサイトカインストームと呼ばれる状態になり、活性化した免疫細胞が正常な細胞にもダメージを与えるようになりCOVID-19の重症化に関与しているとの説が有力です。なぜサイトカインストームが起きるかはよく分かっていませんが、主要な炎症性サイトカインであるIL-6の血中濃度と肺炎の重症度との間に明確な関連があることが報告されています。
- その他の機序について
他方では、単純に免疫力だけの影響でないとも考えられています。例えば、肺がん患者では喫煙者が多く、喫煙によるACE2の発現増加なども原因として推定されています。逆に前立腺がんなどで抗アンドロジェン療法を受けている患者ではTMPRSS2の発現抑制などを介して、感染や重症化リスクが下がる可能性も示唆されています。
- まとめ
過度な心配は不要ですが、新型コロナウイルス感染症にかからないように、日々の生活の中での基本的な感染予防対策を守ることがとても重要です。症状の悪化が予測される因子として呼吸困難、頻脈、呼吸回数の増加が報告されており、体調不良時のこれらの症状には注意が必要です。
がん患者の新型コロナウイルス感染症のかかるリスクについて解説しましたが、次回はがん診療の現状について述べて行きたいと思います。
出典:JAMA Oncol. 2021 Feb 1;7(2):220-227.
J Clin Oncol. 2020 Nov 20;38(33):3914-3924.