がん免疫療法コラム

シンボルマーク
パターン
パターン

ウイルスが原因で起こる成人T細胞白血病・症状や感染経路をあわせて解説

成人T細胞白血病とは、白血球の「T細胞」がウイルス感染によりがん化し、そのがん化した細胞が増殖することで発症する疾患です。成人T細胞白血病を発症すると、初期段階として発熱や倦怠感、リンパ節の腫れや発疹など、さまざまな症状があらわれます。

今回は、成人T細胞白血病を発症する原因と症状、感染経路などをわかりやすく解説します。

成人T細胞白血病とは?


成人T細胞白血病は、ヒトTリンパ好性ウイルス1型 (HTLV-1) に感染することで引き起こされる血液のがんの一種です。この疾患は、主にTリンパ球が異常に増えることで発症します。

初期症状としては、発熱や全身の倦怠感、食欲不振が見られます。さらに、全身のリンパ節の腫れや、皮膚に発疹や腫れが現れることもあります。これらの症状は、他の疾患と間違えやすいため、注意が必要です。

感染経路としては、母子間の感染や性的接触を通じて感染することが知られています。また、輸血による感染も確認されているため、輸血の際の安全対策が重要となります。

成人T細胞白血病は、その進行や症状によって「くすぶり型」「慢性型」「リンパ腫型」「急性型」と分類されます。

  • くすぶり型

この型は進行が遅く、特有の症状がほとんど現れません。定期的な検査で偶然発見されることが多いです。

  • 慢性型

くすぶり型に比べ、進行はやや早くなります。リンパ節の腫れや皮膚の症状が顕著に現れ、一般的な全身症状も見られます。

  • **リンパ腫型

主にリンパ節の腫れが特徴的です。他のリンパ腫と症状が似ているため、診断には細心の注意が必要です。

  • 急性型

進行が非常に速く、急性の白血病のような症状が現れます。高熱や出血傾向、臓器の障害など、重篤な症状が現れることもあります。

成人T細胞白血病は、初期症状が他の疾患と似ているため、早期発見・早期治療が非常に重要です。定期的な健康診断や体の変化に注意を払うことで、早期に発見することが可能となります。

成人T細胞白血病の原因となるウイルスについて


成人T細胞白血病は、HTLV-1というウイルスの感染が主な原因として知られています。HTLV-1は免疫細胞の一種であるT細胞に感染すると、これをがん細胞化させます。そして、これらの異常なT細胞が体内で増殖することで、成人T細胞白血病という疾患が発症します。

しかし、すべてのHTLV-1感染者が成人T細胞白血病を発症するわけではありません。実際、感染者の中で生涯においてこの疾患を発症する確率は3〜5%とされており、大部分の感染者は一生無症状のままです。さらに、感染しても発症するまでに非常に長い時間がかかることが特徴的で、特に40歳以下での発症は非常に稀とされています。多くは高齢者になってからの発症が主となっています。

以上から、成人T細胞白血病を発症する要因として、HTLV-1への感染が最も重要である一方、年齢や体の免疫状態など、他の複数の要素も関与していると考えられます。それゆえ、感染予防はもちろん、定期的な健康診断や自身の体調管理が極めて重要となります。

成人T細胞白血病は治療が難しい


成人T細胞白血病は、その症状の程度や血液検査の結果によって「くすぶり型」「慢性型」「リンパ腫型」「急性型」の4つに分類されることを説明しました。くすぶり型や異常なLDH、BUN、アルブミン値が見られない慢性型の場合、病状が進行しないため、治療の代わりに経過を観察することが多いです。しかし、これらの型の患者様の生存期間の中央値は約4.1年となっています。

一方、急性型やリンパ腫型、またLDH、BUN、アルブミン値に異常がある慢性型の患者様は、病状が重く治療が必要となります。化学療法を用いた場合、生存期間の中央値は13ヶ月、3年生存率は24%と低い数字が示されています。

しかし、近年の医療技術の進歩により、「同種造血幹細胞移植」という新しい治療法が導入されました。これは、健康な人からの造血幹細胞を患者様に移植するもので、3年生存率が40%と従来の化学療法よりも高い効果が期待されています。ただし、適切なドナーを見つけるのが難しいというデメリットがあります。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV‐1)の感染者数は減少傾向



成人T細胞白血病の主な原因となるHTLV-1の感染は、日常生活ではほとんど起こりません。最も一般的な感染経路は母乳を通じた感染で、これを避けるために粉ミルクを利用することで予防が可能です。妊婦健診でのHTLV-1抗体検査により、未来の赤ちゃんへの感染リスクを事前に察知し、予防策をとることができます。

事実として、長崎県での調査によれば、1950年のHTLV-1感染率は6.05%でしたが、2010年には0.06%まで大幅に減少しています。このような予防策の徹底により、21世紀後半には長崎県において成人T細胞白血病が消滅する可能性が高まっています。

まとめ


成人T細胞白血病は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)によって引き起こされる疾患であり、非常に治療が難しい疾患です。従来の抗がん剤治療では十分な治療が難しく、造血幹細胞移植はドナー確保が難しいのが問題でした。

しかし、予防法が確立されているためHTLV-1感染者は減少傾向であるため、成人T細胞白血病を発症する患者様は減少すると考えられます。また、近年では、抗体医薬品によって完全寛解率が上昇したという報告があり、今後の治療薬の進展が期待されています。

 

参考文献

国立感染症研究所,成人T細胞白血病とは

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/326-atl.html

日本内科学会,成人T細胞白血病の診断と治療

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/7/106_1397/_pdf/-char/ja

Adult T-cell leukemia/lymphoma

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24476526/

HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

https://neurology-jp.org/guidelinem/ham/ham_2019.pdf

厚生労働省,ATLとHTLV-I のQ&A

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/qa.html

資料請求・お問い合わせ

専任のスタッフが丁寧に対応いたします。ご不明な点などございましたら、まずはお気軽にご相談ください。

この情報をシェアする
シンボルマーク

よく読まれている記事

株式会社 同仁がん免疫研究所
TEL : 0120-350-552
  • [ 本社 ] 熊本県熊本市南区流通団地 1-44-2
  • [ 培養センターII ] 熊本県熊本市南区流通団地 1-27
© Dojin Institute of Cancer Immunology, Co., Ltd. All Right Reserved.
TOP