がん免疫療法コラム

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がんとオートファジー

皆さんはオートファジーという現象をご存知でしょうか?

2016年にはオートファジーのメカニズムに関する研究がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、オートファジーが注目されました。近年、オートファジーの研究は盛んにおこなわれており、神経変性疾患や糖尿病など、様々な病態と関係することが報告されています。

今回のコラムでは、そんなオートファジーとがん治療との関係についてお話ししたいと思います。

 

■オートファジーとは

オートファジー(Autophagy)は「自己(Auto)」と「食べる(Phagy)」に由来する造語で、日本語では「自食作用」と呼ばれています。その名の通りオートファジーは、細胞が自分自身の物質を分解することで、細胞内の正常な状態に保つ働きを持っています。

オートファジーは正常な細胞において、①細胞の健康を維持する役割と②細胞を飢餓状態から助ける役割を担っています。①細胞の健康(恒常性)を維持するには、細胞内のタンパク質の品質を保つことが必要です。オートファジーは、細胞内で老朽化したり、傷ついた細胞内のタンパク質や細胞内小器官を分解し、細胞内の異常なタンパク質(ゴミ)の蓄積を防いでいます。②細胞が様々な要因で飢餓状態に陥ると、オートファジーが誘導されます。オートファジーは、細胞自身のタンパク質を分解し、細胞の生存に必要なタンパク質の原料であるアミノ酸にリサイクルする役割を持っています。

 

■オートファジーに着目したがん治療の可能性

 このようにオートファジーは正常細胞にとって重要な機能ですが、同様にがん細胞の生存にとっても重要な役割を果たします。がん細胞では、その異常な細胞増殖により飢餓状態となりますが、オートファジーを利用することで、自身の生存を手助けします。また、がん細胞に対して抗がん剤を投与した場合、オートファジーが活性化され、抗がん剤耐性に寄与することが報告されています。

がん細胞では、このようにオートファジーが促進され、がん細胞自身の生存のために利用されています。そのためオートファジーの制御は、がん細胞の生存の抑制や、抗がん剤耐性の改善に貢献すると考えられており、がん治療における新たな標的として注目されています

また膵管腺癌では、オートファジーを利用し、がん細胞における生体の免疫が認識する部位(MHC-1)を分解し、がん細胞が生体の免疫を回避していることが明らかにされています。加えて、オートファジーを阻害すると、生体の免疫による認識が回復し、抗腫瘍免疫反応が増強されることからも、オートファジーとがん治療の可能性が報告されています。

 

■オートファジー阻害剤について

 オートファジー阻害剤としてクロロキンやその誘導体であるヒドロクロロキンが臨床的に注目されています。現在、れらのオートファジー阻害剤を用いて、肺がんや乳がんを始めとする様々ながんに対して数多くの臨床試験が進行しています。最近では、クロロキンやヒドロクロロキンに加え、オートファジーを強力に阻害する化合物も創出されており、オートファジーに着目したがん治療の発展がますます期待されています。

以上のように、オートファジーに関する研究は数多く行われ、重要な知見が得られていますが,がんにおけるオートファジーの関連の理解はまだ不明な点が多いことも事実です。オートファジーのメカニズムとがんにおける役割の理解がさらに進み、新たな治療薬・治療法の開発つながることが期待されています。

 

参考文献

  1. 池上 恒雄. オートファジーとがん-メカニズムと治療への応用- 最新医学・72巻・2号.62(218)
  2. K Yamamoto et al., Autophagy promotes immune evasion of pancreatic cancer by degrading MHC-I, https://doi.org/10.1038/s41586-020-2229-5
  3. Y Kudo et al., Discovery and structure-based optimization of novel Atg4B inhibitors for the treatment of castration-resistant prostate cancer. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jmedchem.1c02113
  4. オートファジー(自食作用)とは?オートファジーが体内でもたらすこと https://medicalnote.jp/contents/170713-003-KG
  5. 小松 雅明. オートファジーの病態生理学的研究. 生化学第79巻第8号,749-760,2007

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