がん免疫療法コラム

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がん免疫_固形がんCAR-T#1

2019年より日本でも保険診療として行われているキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法ですが、現時点では急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などいわゆる「血液がん」に限られています。しかし、実際にがんの9割を占めるのは胃癌や膵癌など「固形がん」と呼ばれる血液以外のがんです。最近、そのような固形がんに対するCAR-T療法の開発が活発になってきています。今回は固形がんに対するCAR-T療法について述べていきます。

 

固形がんに対するCAR-T療法の壁

CAR-T療法は、患者さんからTリンパ球を採取し、それにがんを認識して攻撃するような遺伝子改変を行って、再び患者の体内に戻す治療法です。

白血病やリンパ腫などの血液がんには高い効果を発揮するCAR-T療法ですが、固形がんではまだ実用化のめどは立っていません。その主な理由として、次の2つが挙げられます。1つは、適切ながん抗原(がん細胞を認識する目印)が見つかっていないことです。血液がんではCD19やBCMAなどたった1つの目印を対象とするだけで、血液がん細胞を攻撃できましたが、固形がんでは1つの目印だけを対象としてもなかなか攻撃が続かないのです。

もう1つの理由は、CAR-T細胞自体をがん細胞にどうやって届けるか、です。血液がんは血液中を流れているので、CAR-T細胞を通常の点滴の要領で血管内に投与すれば、がん細胞にCAR-T細胞を届けられます。しかし、固形がんは、胃癌なら胃、膵癌ならすい臓など限られた場所にしかいないことが多く、血管内に投与してもがんに届くとは限りません。血管の外に出て、がん組織内部に入り込んでいく必要があるのです。

 

固形がんに対するCAR-T療法の開発状況

上記の理由などによって、固形がんに対するCAR-T療法の開発は、血液がんと比較すると遅れています。しかし、最近これらの課題を克服すべく工夫されたCAR-T療法がでてきているのでご紹介します。

例えば、サイトカインとケモカインを同時に産生させるPrime CAR-T細胞というものがあります。IL-7というTリンパ球の生存や増殖を促すサイトカインと、CCL19というTリンパ球や樹状細胞の遊走を刺激するケモカインをCAR-T細胞に発現させることによって、がん細胞内部にTリンパ球や樹状細胞を浸潤させます。これらの作用によって、CAR-T細胞のみならず、患者さん自身の免疫細胞の力も借りて攻撃することで、固形がんに対して高い効果を発揮することが期待されています。

この技術は研究機関で開発されたものですが、すでに産学共同で臨床試験が開始されようとしています。

 

[参考資料]

Adachi K et al., IL-7 and CCL19 expression in CAR-T cells improves immune cell infiltration and CAR-T cell survival in the tumor. Nat Biotechnol. 2018 Apr;36(4):346-351.

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