がん免疫療法コラム
がん免疫_腫瘍溶解性ウイルス療法#2
今回は、腫瘍溶解性ウイルス療法の臨床試験の進行状況について概説します。
1996年、欧州で単純ヘルペスウイルス変異株を用いた臨床試験が初めて実施されました。悪性度の高い脳腫瘍に対して、腫瘍内部に注入する治療が行われ、一部の患者さんに効果があることが示唆されました。
T-VECの登場
この治療法が注目度を増したのは、悪性黒色腫に対してタリモジーン・ラハーパレプベック(talimogene laherparepvec: T-VEC)の臨床試験が行われたことによります。T-VECは、単純ヘルペスウイルス1型をもとに作られ、正常細胞への感染性を弱め、がん細胞の中で増殖するとともに、免疫細胞を刺激する物質(GM-CSF)を作り出す作用を持ちます。
第I相臨床試験では、腫瘍内投与された場合の安全性とがん細胞の壊死を誘導することを明らかにしました。第II相臨床試験では、手術不能な悪性黒色腫へ腫瘍内投与を繰り返し行い、26%の患者さんで著効しました。腫瘍局所ならびに全身において抗原特異的T細胞などの免疫抑制因子の減少を認め、この治療法が免疫系にも作用していることを示唆しました。
以上の結果を踏まえて行われた第III相臨床試験では、手術できないほど進行した悪性黒色腫患者において、T-VECの腫瘍内投与と皮下GM-CSF接種群を比較検討しました。T-VECは連続的に腫瘍に注射します。初回投与から3週間後に2回目を投与し、その後は2週ごとに最低6か月間、注射可能な病変がなくなるまで投与されました。ランダム割り付けされた436人の患者さんの中で、T-VEC群では6か月以上続く効果が見られた人の割合が16.3%であるのに対し、GM-CSF群では2.1%であり、T-VEC群のほうが有意に高い結果が明らかとなりました。T-VECの奏効率は31.5%で、そのなかでも16.9%が完全寛解を達成しました。完全寛解に至るまでの期間中央値は8.6か月で、さらに完全寛解に到達した患者さんの5年生存率は88.5%でした。これらの患者さんでは一般に5年生存率は50%未満と考えられているので、この結果はとても有望と考えられます。
以上の臨床試験結果を踏まえて、2015年米国食品医薬品局(FDA)は初めての腫瘍溶解性ウイルス療法としてT-VECを承認しました。
このように単剤でも効果が期待できる腫瘍溶解性ウイルス療法ですが、免疫チェックポイント阻害薬との併用でさらなる効果が期待されています。次回はそのあたりのトピックについて触れる予定です。
[参考資料]
Raman SS et al., Talimogene laherparepvec: review of its mechanism of action and clinical efficacy and safety. Immunotherapy. 2019 Jun;11(8):705-723.
Andtbacka RH et al., Talimogene Laherparepvec Improves Durable Response Rate in Patients With Advanced Melanoma. J Clin Oncol. 2015 Sep 1;33(25):2780-8.
Andtbacka RH et al., Patterns of Clinical Response with Talimogene Laherparepvec (T-VEC) in Patients with Melanoma Treated in the OPTiM Phase III Clinical Trial. Ann Surg Oncol. 2016 Dec;23(13):4169-4177.