がん免疫療法コラム

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iPS細胞とがん免疫療法

2006年に京都大学の山中伸弥教授によって作製されたiPS細胞は、2012年に同教授がノーベル賞を受賞したこともあり、広く知られている技術です。今回は、このiPS細胞を用いたがん免疫療法の取り組みについてご紹介します。

 

T細胞をiPS細胞技術で若返らせる

がん免疫療法において中心的な役割を果たす細胞はリンパ球の中でもT細胞と呼ばれる細胞です。この細胞は、がんやウイルスを攻撃する性質がありますが、疲弊・老化して、次第にその力は弱ってしまいます。

2013年に東大の研究グループは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者体内に存在する疲弊・老化したT細胞に、山中の因子を導入してiPS細胞に初期化し、そこから再びT細胞に分化することによって、疲弊・老化したT細胞を若返らせることに成功しました。このT細胞はもともとの細胞と同じ遺伝子発現プロファイルと機能を有しており、HIV感染細胞を攻撃することを明らかにしました。この技術を用いると、がんやウイルスを攻撃することができるT細胞を大量に作製することができ、持続的な攻撃が可能となります。

 

実用化に向けて他人のT細胞でより効率的に

しかしこの方法だと患者さん本人から毎回作製する必要があり、コストや手間の面から実用化は困難です。したがって、この技術を進展させ、2018年にはiPS細胞研究所がストックしているiPS細胞に、がん細胞を特異的に認識して攻撃する遺伝子を導入することによって、複数の患者さんに使用できる抗原特異的Tリンパ球を作製できるようになりました。さらに、いま流行りのキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入技術を用いることで、 複数の患者さんにiPS細胞由来のCAR-T細胞を供給できる技術も開発されました。

 

個別化がん免疫療法へ

現在は、さらに技術は進展しており、具体的にはiPS細胞の段階でHLAという個々人を認識する遺伝子をなくし、かつCARを導入することによって、がん細胞を攻撃するものの、他からの攻撃を受けずに生き延びるT細胞として改良されています。

これらiPS細胞を用いたがん免疫療法の技術は、京都大学iPS細胞研究所に加え、民間企業が参画することによって共同研究が開始されており、臨床応用が加速化されることが今後期待されます。

 

[参考資料]

Nishimura et al., Generation of rejuvenated antigen-specific T cells by reprogramming to pluripotency and redifferentiation. Cell Stem Cell. 2013;12(1):114-26.

Minagawa et al., Enhancing T Cell Receptor Stability in Rejuvenated iPSC-Derived T Cells Improves Their Use in Cancer Immunotherapy. Cell Stem Cell. 2018;23(6):850-858.e4.

Wang B et al., Generation of hypoimmunogenic T cells from genetically engineered allogeneic human induced pluripotent stem cells. Nat Biomed Eng. 2021;5(5):429-440.

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