がん免疫療法コラム
腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)について Part.2
前回に続いて腫瘍浸潤リンパ球療法(Tumor infiltrating lymphocytes:TIL療法)を紹介いたします。
TIL療法の壁
前回みてきたように素晴らしい治療成績を残したTIL療法ですが、この治療を行うには高度なTILの培養技術を要するため、実施可能な施設は世界全体でも約10施設程度と極めて限られていました。日本でTILの培養を行うためには、培養の足場となる細胞(フィーダー細胞)と培養で用いる大量のAB型のヒト血清の入手が大きな問題となりました。
日本でのTIL療法
しかしこれらの困難を克服し、ついに近年国内で悪性黒色腫に対する臨床試験が行われ、その結果が報告されました。
方法としては、まず悪性黒色腫の手術を行います。手術で取り出された腫瘍は実験室に運ばれ、TILを取り出し、2-3週間かけて培養し約1000倍にも増殖させます。そして患者さんに、TIL以外のリンパ球を減らすことを目的とした抗がん剤を行ったのちに、増殖させたTILを投与します。TIL投与後にはTIL増殖を刺激するインターロイキン2(IL-2)というサイトカインを投与します。
合計3例に行い、1例は部分寛解(半分以下まで腫瘍が小さくなること)、1例は長期に病状が安定し、1例は残念ながら効果がありませんでした。しかしながらその安全性は確認され、国内でも実施可能なことが示されました。
子宮頸がんに対するTIL療法
さて、ここまでは悪性黒色腫に対するTIL療法の効果を中心に解説してきましたが、それ以外にも腎がんや子宮頸がんにおいて知見が積み重ねられてきました。
例えば、Rosenbergらは子宮頸がん9例に対してTIL療法を行い、3例の患者さんで腫瘍が縮小し、このうち2例は完全寛解(完全に腫瘍が消失すること)に至ったと報告しています。そしてこの2例は5年以上経過しても再発していません。
子宮頸がんは日本国内でも年間約1万人以上が罹患し、約2,900人が死亡している病気です。特に若い人に多いことが特徴で、15-39歳女性では、乳がんに次いで2番目に罹患数・死亡数の多く、再発した場合は、現状治療に難渋することがほとんどです。従って、TIL療法が普及すればとても大きなメリットが期待されます。
米国ではすでに子宮頸がんに対するTIL療法の企業治験も始まっています。一方、日本でも子宮頸がんに対する臨床試験が開始されますので、今後の進展がより一層注目されます。
[参考資料]
Hirai I et al., Adoptive cell therapy using tumor-infiltrating lymphocytes for melanoma refractory to immune-checkpoint inhibitors Cancer Sci. Online ahead of print. (2021)
Stevanović S et al., Complete regression of metastatic cervical cancer after treatment with human papillomavirus-targeted tumor-infiltrating T cells. J Clin Oncol., 33(14):1543-50 (2015)