がん免疫療法コラム
尿路上皮がんに対する新薬誕生の可能性
尿路上皮がんに対する治療の選択肢が拡大中
膀胱がんの一種である尿路上皮がんは膀胱がん全体の約90%を占めており,日本では毎年2,4000人以上の方が尿路上皮がんの診断を受けています.現在の尿路上皮がんに対して薬物療法を行う場合は,白金製剤や免疫チェックポイント阻害剤を用います.なお,数ある免疫チェックポイント阻害剤のうちキイトルーダ(MSD株式会社)やバベンチオ(メルクバイオファーマ株式会社,ファイザー株式会社)が尿路上皮がんに対して承認を取得しており,他にもオプジーボ(小野薬品工業株式会社)やテセントリク(中外製薬株式会社)が適応拡大の承認申請を行っています.
さらに,上記の治療による効果が十分ではなかったときに使用できる医薬品として米国で正式に承認を受けた薬物ー抗体複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)がPADCEV(パドセブ)です.今回は,日本で製造販売の承認が間近に迫っているパドセブについて紹介します.
パドセブの特徴
パドセブはアステラス製薬株式会社が研究開発を進めているADCで,一般名は「エンホルツマブ ベドチン(遺伝子組換え)」です.腫瘍細胞上に存在する「ネクチン-4」と呼ばれるタンパク質を認識する抗体と微小管重合阻害作用により強力な抗腫瘍効果を発揮するモノメチルアウリスタチンE(MMAE:MonoMethyl Auristatin E)を結合させた複合体がパドセブです.パドセブがネクチン-4を発現する細胞に取り込まれた後,抗体とMMAEとの結合が酵素による加水分解で切断されることでMMAEが抗腫瘍効果をもたらします.このように,パドセブは抗体,抗腫瘍活性を持つ分子,さらには両者を繋ぐ結合を工夫することによって腫瘍細胞でのみ抗腫瘍効果が得られるよう設計されています.
米国では正規承認,日本ではまもなく承認される予定
パドセブは米国で2019年12月にFDA(Food and Drug Administration)から迅速承認を受けていましたが,迅速承認後に得られた臨床試験の結果を基に2021年7月には正規承認されています.
また,日本と欧州では2021年3月に製造販売の承認申請を行い,9月6日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会ではパドセブ承認に対して了承が得られたため,近日中に承認される予定です.
日本での尿路上皮がんに対する新たな治療法としてADCであるパドセブを用いることができる日が訪れることを期待しています.
[参考資料]
抗体-薬物複合体PADCEV®(エンホルツマブ ベドチン) 局所進行性または転移性尿路上皮がん治療薬として米国で正規承認ならびに適応追加の承認を取得 | アステラス製薬