がん免疫療法コラム

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腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)について Part.1

今回は、以前ご紹介したChimeric antigen receptor 遺伝子改変 T 療法(CAR-T 療法)とともに、大変期待されているがん免疫療法として腫瘍浸潤リンパ球療法(Tumor infiltrating lymphocytes:TIL療法)を紹介します。

 

腫瘍浸潤リンパ球(TIL)とは

「免疫」とは自分とは異なるもの(異物)を認識し、排除しようとする力のことで、我々は普段この力によって外からやってくる細菌やウイルスから守られています。そして、その免疫の中心として働くのがリンパ球です。一方で、がんは自分自身の細胞から変化するもので、一般的には免疫の攻撃からうまく逃れて成長します。しかし、がんを攻撃するリンパ球が体内にまったくいないわけではありません。ではそのリンパ球はどこにいるかというと、がんの周囲にいるのです。それが腫瘍浸潤リンパ球(TIL)です。

TIL は、がん細胞特有のタンパク質を認識してがん細胞を攻撃する細胞傷害性 T リンパ球(CTL)を多く含んでいます。

 

 

TIL療法とは

TIL 療法では、がん患者さんご本人のがん組織を手術などで採取した際に、そこに含まれるTILを体外で培養して大量に増やし、患者さんに戻します。体内に戻ったTILはがん細胞を認識し、がん細胞を攻撃するという仕組みです。このようにTIL はもともと、患者さんご自身の細胞なので、それ自体の副作用は少ないと考えられています。

この治療は、アメリカを中心に1990年代頃から行われ、特に最も予後の悪い悪性腫瘍の一つとして知られる悪性黒色腫(メラノーマ)においてその治療効果が実証されてきました。

例えばRosenbergらは、TILの投与に加えて、抗がん剤、さらにTILの増殖能と腫瘍への浸潤を促すインターロイキン2(IL-2)というサイトカインを追加する臨床試験を行いました。その結果、転移を有する悪性黒色腫患者さん93例に対して、半分以上の患者さんで効果が得られ、完全寛解(腫瘍が検査で消えた状態)に至った患者さんも21%おり、さらに、完全寛解に至った患者さんのほとんどは10年近く経過しても再発がないという成績を得ました。

通常、転移を有する悪性黒色腫患者さんの5年生存率は10%程度で、完治することは極めて稀です。以上を踏まえると、完全に腫瘍が消失し、長期に生存する可能性があるこの治療は、完治を目指せる極めて優れた治療法といえます。

 

 

CAR-T療法との違い

すでに保険適応にもなり、日本でも広く用いられるようになってきているCAR-T療法は、がん(白血病細胞やリンパ腫細胞)を認識できるように、人為的に遺伝子改変を行ったリンパ球を体内に戻します。しかしこの場合、攻撃の標的となるがん抗原(目印)は1種類しかなく、がん細胞が変化してその抗原がなくなってしまえば効果が失われてしまいます。一方、TILは複数のがん抗原を標的にしていると考えられ、がん抗原がいっぺんに消失しない限り、有効性が保たれます。また個々人のがん細胞に対してTILが作られるわけなので、究極の個別化治療ともいえるのです。

 

[参考資料]

Rosenberg SA et al., Adoptive cell therapy for the treatment of patients with metastatic melanoma. Curr Opin Immunol., 21(2):233-40 (2009)

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