がん免疫療法コラム

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COVID-19によるサイトカインストームとその治療法

2019年12月に発生し、世界的大流行をもたらした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、いまだ収束の兆しが見えません。数々の報道の通り、COVID-19は、ほとんどの患者さんでは無症状あるいは、かぜ程度の軽度な症状で済み、特別な治療を要しません。しかし、一部の患者さんは重症化してしまいます。その重症化の最大の要因は、「サイトカインストーム」つまり「過剰な免疫反応」であると考えられています。

今回は、そのサイトカインストームの仕組みと、それに対する治療について解説します。

 

COVID-19によるサイトカインストーム

ウイルス感染症によるサイトカインストームについてはVol.68でも触れています。ウイルスが体内に入ると、免疫を担当する細胞(マクロファージや単球など)はそれを排除しようとして、活発になります。そしてこれらの細胞は、ウイルスを排除し身体を守るために「サイトカイン」と呼ばれる発熱物質を出すのです。これ自体は防御反応で、身体を守るためには欠かせません。しかし、その反応が何らかの理由によってブレーキが効かなくなり、過剰になった状態を「サイトカインストーム」と呼びます。

サイトカインストームが生じると、本来ウイルスに向かって働くべきサイトカインが、自分の身体をも傷つけることになり、高熱が持続し、肺を傷つけます。COVID-19の場合、最初に症状をきたしてから7-10日目頃にこの現象が頻発することが知られています。

従って、最初は自宅療養やホテル療養などで問題なかったものの、次第に具合が悪くなり入院が必要になる、ということが起きるのです。

 

サイトカインストームに対する治療

COVID-19の治療は、まさに日々進歩しています。その中で当然サイトカインストームに対する治療についても知見が積み重なってきました。サイトカインストームに対しては現在国内では主に2つの治療薬が中心になります。

 

1) ステロイド(デキサメタゾン)

過剰な免疫反応を抑えるためのステロイド投与は、かなり早期から有効性が示唆されていました。そして、2020年6月にイギリスから報告された臨床試験の結果により、その効果はより明らかになりました。この試験は、6,425人の参加者を対象に行われ、デキサメタゾン(ステロイドの一種)を10日間投与した群としなかった群を比較したところ、死亡率が投与群で有意に低かったのです(投与群21.6% vs. 非投与群24.6%)。特にこの効果は、人工呼吸器を必要とした重症の患者さんに限定すると、さらに顕著でした(死亡率は投与群29.0% vs. 非投与群40.7%)。

これらの結果から、世界保健機構(WHO)も重症の患者さんではステロイド投与を強く推奨するようになったのです。

 

2) トシリズマブ(アクテムラ®)

サイトカインストームで中心的な役割を果たすのは、「インターロイキン6(IL-6)」というサイトカインであることが次第に明らかになりました。そしてそのIL-6を抑える薬剤がトシリズマブ(商品名:アクテムラ®)です。この薬剤は日本で開発され、もともと関節リウマチやキャッスルマン病の治療に用いられていました。

2021年にイギリスから報告された臨床試験では、酸素療法を要する4,116人の参加者において、トシリズマブ投与群のほうがしなかった群に比較して有意に死亡率が低かったのです(投与群29% vs. 非投与群33%)。大半の患者さんでは、ステロイドも投与されていることから、トシリズマブはステロイドに上乗せして投与することによって治療成績改善が期待できると考えられています。

 

重症化のリスク因子

それではどのような人が重症化しやすいのでしょうか。

現在判明しているものとして、高齢者(65歳以上)、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後、妊娠後期などがあります。

ただし、それだけでは説明できない部分もあり、遺伝子解析なども含めて現在も世界中で研究が進められています、

 

[参考資料]

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(第5.2版)

Horby P et al., Dexamethasone in hospitalized patients with Covid-19 – Preliminary Report. N Engl J Med. 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2021436.

RECOVERY Collaborative Group: Tocilizumab in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomised, controlled, open-label, platform trial. Lancet. 2021;397(10285):1637-45.

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