がん免疫療法コラム
UMINから読み解く医師主導治験におけるがん免疫療法のニーズについて
・がんに対する免疫療法の割合について
2021年8月15日時点、UMINに登録されているがんの「安全性」を主目的としている医師主導治験の中でPhaseⅠ~Ⅲにおける被験者の募集をしているものは(一般募集及び限定募集含む)120件中3件です(免疫チェックポイント阻害剤2件、樹状細胞療法及び活性化リンパ球1件)。
「安全性・有効性」を主目的としている医師主導治験の中でPhaseⅠ~Ⅲにおける被験者の募集をしているものは(一般募集及び限定募集含む)142件中9件という結果が出ています(免疫チェックポイント阻害剤5件、HLA-A24拘束性エピトープペプチド2件、樹状細胞療法2件)。
免疫療法の種類としては免疫チェックポイント阻害剤による治験が7件と多く、次に樹状細胞療法が3件となっています。
その中で、現在1番進捗が速い治験が、PhaseⅢの限定募集中における「原発性肺癌術後補助療法における化学療法と樹状細胞、活性化リンパ球の第III相比較試験」です。
「肺がん切除後の再発予防に対する化学療法と樹状細胞、活性化リンパ球の併用効果を化学療法単独群と生存率と非再発生存期間で比較する」及び「有効性」を目的としてあげています。
主要アウトカム評価項目として、「生存率、2年生存率、5年生存率」。副次的アウトカム評価項目としては、「非再発生存期間、安全性、副作用」として判定をしています。
この治験の内容から読み取るに、がんの標準治療法として確立されている化学療法に、樹状細及び活性化リンパ球を用いた免疫療法を併用する事で、抗腫瘍効果としてのシナジーが期待されています。
本治験が脱落する事なくPhaseⅢまで到達していることから、免疫療法のニーズの高さがうかがえます。
・がんに対する免疫療法の歴史
免疫療法はがんに対する第4の治療法として知名度がドンドン高くなってきています。
以前より免疫系の研究は進んでおりました。
1970、80年代当初は非特異的免疫療をメインに臨床研究が行われていましたが、1991年頃からがん抗原が特定され始め、そこから抗原提示細胞の基礎研究が進み、それを応用した免疫療法のブームが来ました。
それを皮切りに、ほぼ全てのがん種において免疫療法でのアプローチが大学病院やクリニック等で始まりました。
・がん治療における免疫療法のニーズ
免疫療法の研究と同時に免疫系の研究も進み、様々ながん抗原(腫瘍マーカーや遺伝子等)が特定されてきました。
免疫系統では、免疫チェックポイント阻害剤への応用。
がん抗原では、抗原提示細胞やペプチドを応用した免疫療法の臨床研究が進んでいます。
そのニーズとしては、標準療法よりも副作用が少ない事。また、他の治療法との併用が可能であり、シナジー効果が期待される事です。
・まとめ
がんに対する治療薬として最近注目されている免疫チェックポイント阻害剤。PMDAに承認されてから約8年が経過しますが、免疫療法としての先駆け的存在である樹状細胞療法、ペプチドワクチン療法のニーズもまだまだあります。
今後も新規の腫瘍マーカーが発見されることにより、抗原提示細胞を用いた免疫療法の臨床研究が進んでいく事でしょう。
参考リンク:
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000008887
van der Bruggen P, et al.: Science 1991; 254: 1643-7.
Cancer Immunology, Immunotherapy vol 65, no 9, pp 1099-1111
注釈:
UMINとはUniversity Hospital Medical Information(大学病院医療情報ネットワーク)の略で全国42の国立大学病院のネットワーク組織で、フリーアクセス可能なデータベースの事を指し、医療関係を中心に様々な情報が提供されています。