がん免疫療法コラム
T細胞を使ったがん免疫療法の進展 Part.4
前回に続き、T細胞を利用したがん免疫療法におけるナノマテリアルの可能性を紹介していきます。
ターゲット抗原の消失を防ぐナノマテリアル
ここまで紹介してきたがん免療法はT細胞が標的とする抗原が欠かせません.具体的には,T細胞の表面にある抗原を認識する部位と抗原の相互作用が働くことによって治療効果を発揮します.ところが,治療を進めていくと腫瘍細胞の表面にあったはずのT細胞が認識できる部位が減少もしくは消失してしまうことがあります.その結果,十分な治療効果が得られなくなってしまいます.
この現象を回避するために現在いくつかの研究が進められおり,その中にBiTEと呼ばれる手法とナノマテリアルを組み合わせた手法があります.
BiTE(Bispecific T-cell Engager)とは、T細胞と腫瘍細胞のそれぞれに存在する分子を標的とする異なる抗体を結合させたもので,T細胞と腫瘍細胞を繋ぐ役割を担うことができます.この手法を用いることで,患者本人から採取したT細胞を用いて腫瘍特異的なT細胞を作製する必要がなく,比較的容易に治療を実施することができます.さらに,腫瘍細胞表面にあったT細胞が認識する部位が減少してもBiTEの作用メカニズムには影響しにくいため,抗原の消失による治療効果の減弱を回避することができます.
一方で,BiTEは体内に入ってから消失するまでの時間が非常に短いために継続的に投与が必要であること,さらにBiTEを構成する2種類の抗体がともに十分に抗原と結合できないケースがあるなど克服すべき課題がありました.
そして,これらの課題の解決にナノマテリアルが有用だと考えられています.
リポソームなどのナノマテリアルの表面にターゲットの異なる抗体を修飾することで素早い消失を回避できます.また,同じ抗体を複数修飾することで結合親和性が弱い場合でもT細胞と腫瘍細胞間の架橋できます.
この方法を用いることで治療が困難とされているトリプルネガティブの乳がんに対しても治療効果が得られると期待されています.
まとめ
4回に渡ってナノマテリアルとT細胞を使ったがん免疫療法を紹介しました.これらの技術はまだ開発途中ですが,実現すればがん免疫療法による治療に可能性をさらに広げることができるため,今後の発展が望まれています.
[参考資料]