がん免疫療法コラム
T細胞を使ったがん免疫療法の進展 Part.3
前回および前々回に続き、T細胞を利用したがん免疫療法におけるナノマテリアルの可能性を紹介していきます。
腫瘍組織へのT細胞送達を促すナノマテリアル
T細胞の増殖を促すタンパク質を封入し、その表面にT細胞が持つタンパク質と結合する抗体を修飾したナノマテリアルは、腫瘍組織でT細胞を活性化・増殖させることで卵巣がんモデルマウスの生存期間が他の治療法と比較して延長したという結果が出ています。
また、ナノマテリアルを担体として使うのではなく、ナノマテリアル自身が腫瘍組織内へT細胞の侵入を促進することにも成功しています。例えば、本来T細胞がほとんど存在しない腫瘍にコアシェル型のリポソーム(Nano-sapper)を生体内に投与することで、腫瘍内へのT細胞の浸潤を促進することが分かっています。
さらに、Nano-sapperは免疫系が機能していない固形腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害剤の有効性を向上させる可能性があるとの報告があります。
腫瘍組織の免疫抑制環境を改善するナノマテリアル
腫瘍組織では特異的な微小環境が起因して免疫系の働きが十分でないことが知られており、これが原因で固形腫瘍に対するがん免疫療法の効果が減弱している可能性があります。つまり、がん免疫療法の有効性を向上させるためには、腫瘍周辺の微小環境を免疫細胞が働きやすい環境に変化させる必要があるのです。
その一例として、CAR-T細胞の表面にマルチラメラ型リポソームを結合させることで、T細胞の不活性化を防いでCAR-T療法の治療効果を高めることが明らかになっています。
次回はT細胞の標的となる抗原の消失を防いで、十分ながん免疫療養の治療効果を得るために研究が進められているナノマテリアルを紹介します。
[参考資料]