がん免疫療法コラム
T細胞を使ったがん免疫療法の進展 Part.1
がん免疫療法と聞くと「チェックポイント阻害剤」や「CAR-T療法」などを思い浮かべる方が多いと思います。これらはがんに対する免疫にとって非常に重要な役割を果たしているT細胞を利用した治療方法で、治療効果が期待できることから注目を集めています。
一方で、いずれの治療法にも解決すべき課題もいくつか残されています。そこで、今回はCAR-T(Chimeric antigen receptor T cell)療法に注目して、現状の課題とその解決方法として研究されていることを紹介していきます。
CAR-T療法の課題とは?
現状のCAR-T療法は、患者自身から採取したT細胞を別の施設で改変・増殖させて本人へ戻すという流れで実施されています。日本で承認されているCAR-T療法用の再生医療等製品はキムリア・イエスカルタ・ブレヤンジの3種類です(2021年6月時点)。
特殊な治療方法であるため、高いコストが課題として挙げられることは容易に想像できますが、それ以外にも課題はあります。ここでは、主に以下の4つの課題を例として挙げます。
- 改変・増殖したT細胞が生体内で増殖せず、治療効果を示すT細胞の数が不十分
- 物理的障壁と免疫抑制環境により投与したT細胞の腫瘍部位への送達が非効率
- 腫瘍周辺の特異的な環境によりT細胞が死滅
- 遺伝子変異により標的抗原が減少(消失)
このうち2,3番目の課題により、CAR-T療法を適用できる疾患は一部の白血病などのいわゆる血液がんに限られています。
課題解決の糸口はナノマテリアル?
先ほど挙げたCAR-T療法の課題に対しては多くの研究が行われており、中でも「ナノマテリアル」を利用した解決方法が非常に注目を集めています。1~100 nmと非常に小さいナノマテリアルはこれまで医薬品に応用されてきた例がいくつかありますが、「なぜナノマテリアルがCAR-T療法の課題を克服できるのか」をこれから複数回に分けて紹介していきます。
[参考資料]