がん免疫療法コラム
小児悪性腫瘍に対するがん免疫療法について①
・概要
小児がん患者の転帰は、過去数十年にわたって有意に改善されてきていますが、非常に多くの小児が依然として不良な転帰を経験しており、生存者は従来の化学療法、放射線療法、および外科的治療等によって、生涯にわたって後遺症に苦しむことが多いとされています。その結果、生存の転帰を改善するための新規標的療法の開発に新たな焦点が当てられています。がんワクチンは有望な免疫療法の1つ都され、腫瘍抗原の認識を介して標的化、腫瘍細胞特異的に傷害を与え、その結果を媒介するために免疫系を利用し、オフターゲット的な毒性を最小限にすることがわかっています。がんワクチンは従来のがん治療とは直交しているため、効果を最大化するために、単独または他の治療法と組み合わせて使用することが想定されています。現在まで、がんワクチン接種は小児集団に置いてほとんど研究開発が進んでいません。
本項では、小児悪性腫瘍の現状から、臨床試験で評価された異なるタイプの腫瘍抗原およびワクチン技術(樹状細胞、ペプチド、核酸、ウイルスベクター)に関して、小児で用いられるものを述べていきます。
・小児悪性腫瘍の現状
厚生労働省政策統括官「平成29年人口動態統計(2018年)」によれば、全人口に対する死亡原因の1位は悪性新生物で、5−9才および10−14才ではそれぞれ死亡原因の1位と2位とされています。また、生存率としては、がん種にもよりますが、国内において7−8割が治癒するとされており、世界的にも8割程度であることが知られています。1975年の世界的なデータでは、約6割の生存率であったことから、生存率の向上がみられていることは確かですが、その一方でがん治療に起因した生涯にわたった障害につながる重大な毒性を引き起こすことが多いことも知られています。加えて、特に中枢神経系に関わる悪性腫瘍では、管理および治療が難しいことが知られており、生存率の中央値が10から18ヶ月程度であることがわかっています。
一方、成人を対象としたがん治療に関しては、がん免疫療法を含むさまざまな治療や早期発見技術の研究、臨床試験が完了または実施されており、年々生存率や奏効率が向上したり、早期発見が可能になってきたりしていますが、一般的に国内では小児を対象としたこれらの臨床試験が少ないことが実情として存在しています。
これらのことから、小児悪性腫瘍に対しては、成人よりも毒性に留意する必要が考えられ、また臨床試験も進んでいないことから、早急な研究開発が望まれています。次回以降の記事では、がんワクチンのうち樹状細胞、ペプチド、核酸、ウイルスベクターそれぞれに関して、小児対象の臨床試験において得られた成果および今後の展望等を解説していきます。
・参考文献
1. Neuro Oncology Advances. 3(1), 1-14, 2021
2. NCHS Data Brief. 2018(328);11-8
3. J Clin oncol. 2009;27(14);2339-2355
4. 国立がん研究センター 小児がん情報サービス 小児がんとは
https://Ganjoji.up/child/dia_tre/about_childhood/index.html