がん免疫療法コラム

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がん免疫療法における細胞老化③-免疫細胞(B細胞・NK細胞・その他免疫細胞)の老化について-

・概要

前回の記事では、T細胞の老化と腫瘍細胞との関係について、簡単に述べてきました。今回も、がん免疫と細胞老化の関係への導入として、免疫細胞の老化について説明します。免疫細胞のうち、B細胞、NK細胞、マクロファージの老化について述べます。

 

・B細胞の老化

腫瘍浸潤性B細胞(TIB)と呼ばれるB細胞は、一般的に固形腫瘍の微小環境に浸透し、腫瘍の進行を抑制または促進するように機能することができます。また、TIBが産生する抗体は、抗原と結合体を形成して補体を介した溶解を活性化したり、他の免疫細胞による破壊のために腫瘍細胞にフラグを立てたり、樹状細胞による腫瘍細胞の取り込みを刺激して腫瘍抗原の提示によりT細胞を活性化したりすることで、腫瘍細胞を死滅させるように作用しています。さらに、TIBは、腫瘍抗原提示細胞そのものとして機能し、免疫刺激性のサイトカインやケモカインを産生します。

加齢がB細胞の腫瘍反応に及ぼす影響については、まだ詳しく研究されていませんが、B細胞の免疫老化と細胞の老化が、B細胞の腫瘍反応に影響を与えているという仮説があります。B細胞の免疫老化や細胞老化のメカニズムは、特に老化による抗原抗体反応やサイトカイン産生の減少を通して、がんにおけるB細胞の機能を低下させるのではないかと考えられています。

 

・NK細胞の老化

NK細胞は、自然免疫系の重要な抗腫瘍細胞であり、その活性は腫瘍細胞上の複雑な活性化・抑制受容体とそのリガンドの配列によって媒介されます。しかし、NK細胞は、免疫調節、免疫応答、老化した細胞の除去など、他の多くの生物学的プロセスにも関与していることが知られています。したがって、加齢やがんに伴うNK細胞の機能低下は、広範囲に影響を及ぼすことが想起されます。しかしながら、NK細胞の細胞寿命は10日前後とされており、明確な細胞老化の定義がなされておらず、研究の発展が期待されています。加齢によるNK細胞の老化現象としては、NK細胞の総数が増加することが観察されており、細胞増殖能力の低下が認められています。また、がん免疫療法に用いられるNK細胞は、in vitroにて大量増殖することにより準備されますが、このNK細胞も繰り返される細胞増殖によって、老化してしまっている可能性が示唆されています。

 

・マクロファージの老化

加齢はマクロファージにも好ましくない影響を与え、その正常な機能を損なっているとされています。老齢マウスのマクロファージは、腫瘍細胞を溶解できず、一酸化窒素を産生できないことが確認されています。さらに、老齢マウスのマクロファージは、IFNに対する反応性が低く、一般的な意味での免疫機能の調節不全に関与していると考えられます。一方、ヒトの高齢者の血清中には、IL-1、IL-6、TNFなどの炎症性サイトカインが増加しており、炎症性疾患の存在が示唆されています。事実、慢性炎症のある腫瘍部位では、炎症性のM1マクロファージの表現型が優勢になり、腫瘍の生存を促進すると考えられています。腫瘍ができてしまうと、免疫抑制的な微小環境がマクロファージを免疫抑制的な特徴を持つM2表現型に向かわせ、予後が悪くなることが示されています。これらマクロファージ由来の炎症性サイトカインが、加齢により腫瘍促進的に働く可能性があることが示唆されています。

 

・その他の免疫細胞の老化

樹状細胞やNKT細胞、好中球などの他の免疫細胞の老化に及ぼす悪影響が研究されていますが、細胞老化に関する情報はほとんどありません。また、これらの細胞のうち、既に分化が最終まで進んでいたり、細胞増殖が少ない、すなわち複製老化をしない細胞もあり、老化の影響が少ない可能性もあります。いくつかの研究では、高齢の生物やがん患者から分離したこれらの細胞について検討されていますが、老化を示すマーカーの増加や形態異常等が認められているものの、統一された見解が得られていません。

本稿では、T細胞以外の免疫細胞の老化について述べました。これらの細胞では、T細胞ほど老化に関して研究が進んでおらず、また細胞によっては老化の影響が少ない、あるいは十分に確認できていないことが示されています。次回以降は、がん免疫療法における老化の臨床的な関連性について述べていきます。

・参考文献

  1. Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 4346;
  2. Nature 566, 46-48 (2019)
  3. Cancers 2020, 12, 2976
  4. 領域融合レビュー, 7, e005 (2018)

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