がん免疫療法コラム
抗体医薬品はどのように作られているのか?
抗体は生体内で作られる分子
抗体とは免疫グロブリン(Immunoglobulin)とも呼ばれ、体内に入ってきた異物を排除するために必要な生体内で産生されている分子のことです。抗体は免疫担当細胞であるB細胞から作り出されています。この抗体の中でも特定の分子を異物として認識して疾患の治療に役立てているものを抗体医薬品と呼びます。抗体医薬品が誕生したことで、有機合成によって作られている低分子医薬品では治療が困難だった疾患に対しても薬物治療ができるようになっています。抗体は私たちヒトだけでなく、ウシ、イヌ、マウスなど様々な生物の体内で産生されています。
抗体医薬品として用いられる抗体は4種類
抗体医薬品として用いられている抗体は、基本的に1つの抗原を認識するモノクローナル抗体です。そして、抗体医薬品としてのモノクローナル抗体は、
- マウス抗体
- キメラ抗体
- ヒト化抗体
- 完全ヒト抗体
の4種類があります。抗体医薬品の作製は、
- マウスに抗原を投与
- マウスからB細胞を集める
- 集めたB細胞とミエローマ細胞(無限に増殖できる特殊な細胞)を融合させる
- 目的の抗体を産生する融合した細胞(ハイブリドーマ)を選別
- 選ばれたハイブリドーマを培養・増殖させてモノクローナル抗体を集める
といった流れです。
現在はヒト化抗体と完全ヒト抗体がメイン
先ほど紹介した流れで工程で抗体を作製するとマウス抗体ができ、抗体医薬品が誕生した当初はマウス抗体が臨床使用されていました。しかしながら、マウス抗体をヒトに投与すると、マウス抗体に対する抗体がヒトの体内で産生されたことで有害事象が起きることが報告されています。この流れを受けて、ハイブリドーマから単離した抗体遺伝子を遺伝子組み替えによりヒト抗体由来に変化させることでキメラ抗体やヒト化抗体を作製し、さらにヒト抗体遺伝子を導入したマウスからB細胞を単離するなどして完全ヒト抗体を作製できるようになりました。
このようにしてできたマウス抗体以外を臨床で用いることで、抗体医薬品に対する抗体ができるリスクが極めて低くなりました。2019年5月までに承認された抗体医薬品のうち、マウス抗体が6、キメラ抗体が9、ヒト化抗体が37、完全ヒト抗体が30となっており、ヒト化抗体と完全ヒト抗体が抗体医薬品の主流になっていると言えます(その他が1)。
初めて抗体医薬品が承認されてからまだ30年ほどですが、抗体を作製する技術はかなりのスピードで発展していることが分かりますし、今後もさらなる研究開発が進められていくことが期待されています。
[参考資料]