がん免疫療法コラム
治療効果と利便性の向上につながる抗体改良技術 Part.5 : BiTE抗体
今回紹介する抗体改良技術を利用して作製された抗体は「BiTE抗体」です。2018年にがん免疫療法用治療薬として日本で承認されているビーリンサイト®(一般名: ブリナツモマブ)はBiTE抗体のひとつです。
BiTE抗体とは?
既にがん免疫療法の領域でも用いられているBiTE抗体とはどのようなものなのでしょうか?
まず、「BiTE」とは二重特異性 T 細胞誘導(Bi-specific T-cell engager)という意味で、免疫担当細胞の一種であるT細胞の細胞膜上に局在するタンパク質であるCD3と標的とするがん細胞に存在するタンパク質の両者に対して結合する能力を持った抗体を指します。
また、通常の抗体は4本のポリペプチド鎖が「Y」のような形を形成しており、抗原と結合に関与する可変領域と免疫担当細胞のFc受容体との結合に関与する定常領域を持っています。ところが、BiTE抗体は
- 1本のポリペプチド鎖から成る抗体
- 定常領域を持たない
- 2つの可変領域を持つ
- 可変領域はT細胞に存在するCD3とがん細胞に存在するタンパク質と結合
といった通常の抗体と異なる特徴をいくつか持っています。
したがって、BiTE抗体はがん細胞とT細胞を架橋し、さらにT細胞を活性化させることでがん細胞を傷害します。BiTE抗体により誘導された一連の免疫反応は生体内で起こる免疫反応と類似していることも特徴のひとつです。
ビーリンサイト®の特徴は?
ビーリンサイト®はアムジェンとアステラス製薬の合併会社であるアステラス・アムジェン・バイオファーマから発売されています。
T細胞とB細胞の細胞膜上の存在するCD3およびCD19と呼ばれる2種類のタンパク質に対して結合する能力を有しているビーリンサイト®は再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病治療薬として使用されます。
21カ国にまたがって実施された第3相試験では、28日間の点滴静注と14もしくは56日間の休薬を1サイクルとして寛解導入療法を2サイクル(最大3サイクル)、その後の維持療法を最大12ヶ月行った結果、有効性の指標である全生存期間の中央値は7.7ヶ月で、標準化学療法の結果(4.0ヶ月)に対して優越性が示されています(全405例)。
BiTE抗体のように、画期的な抗体改良技術を利用した抗体は既に臨床現場で高い有用性を示しています。現在も新たな特徴を有した抗体の臨床試験が盛んに行われているため、今後も革新的な抗体医薬品の誕生が期待されます。
[参考資料]