がん免疫療法コラム
治療効果と利便性の向上につながる抗体改良技術 Part.4 : スイーピング抗体
抗体の価値最大化を目指した研究が加速
抗体医薬品は標的とする部位へ特異的に作用するため、高い治療効果が期待できます。そのため、抗体医薬品は1986年にアメリカでが初めて承認されてから2019年までに79種類承認され、様々な疾患に対して使用されています。
また、現在の医療に欠かすことのできない存在となった抗体医薬品に対して盛んに研究がなされ、抗体の価値をさらに高めるための抗体改良技術に関する研究も注目を集めています。その中でも、今回は「スイーピング抗体」を紹介します。
スイーピング抗体とは?
リサイクリング抗体の復習
スイーピング抗体は、以前に紹介した「リサイクリング抗体」をさらに改良した抗体です。
抗原と結合して細胞内に取り込まれたリサイクリング抗体は、
- pHが血漿中より低い環境(pH6.0付近)で抗原と解離
- FcRn(胎児性Fc受容体: neonatal Fc receptor)の働きにより血漿中へ戻る
といった性質により、1つの抗体が抗原と複数回結合できるよう改良された抗体でした。また、リサイクリング抗体は血漿中(pH7.4)ではFcRnとの親和性が低いため、細胞膜上でFcRnから解離して細胞内から血漿中へくみ出されます。ここが、後述するスイーピング抗体との大きな違いです。
スイーピング抗体は「可溶型抗原」に対して高い効果を発揮
抗原には、
- 細胞膜上に局在している「膜型抗原」
- 血漿中に存在している「可溶型抗原」
があります。可溶型抗原と抗体の複合体は”偶発的に”細胞内に取り込まれることで抗原が分解されます。これは、リサイクリング抗体も同様です。そして、可溶型抗原と抗体の複合体を”偶発的”ではなく”必然的(積極的)”に細胞内へ取り込まれるように改良した抗体を「スイーピング抗体」と呼びます。具体的には、リサイクリング抗体のpH6.0付近の環境で抗原と解離する性質は残しつつ、pH7.4(血漿中)でもFcRnと結合しやすいように抗体のFcRnとの結合部位であるFc領域した抗体がスイーピング抗体です。これにより、血漿中に存在している可溶型抗原を一掃(sweeping)できます。
スイーピング抗体はがん免疫療法に使われている?
リサイクリング抗体と同様に、現時点では残念ながらがん免疫療法に用いられているスイーピング抗体はありません。現在は、神経筋疾患に対して第1相試験を実施中です(開発コード: GYM329/RG6237)。
がん免疫療法の標的抗原として知られているPD-L1には可溶型PD-L1も存在しているため、今後がん免疫療法にスイーピング抗体が使用される日が来るかもしれません。
[参考資料]
中外製薬 新製品開発状況(開発パイプライン) 2021年2月4日現在