がん免疫療法コラム

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がん免疫療法における細胞老化①-細胞の老化と腫瘍細胞について-

・概要

細胞老化とは、従来から生理的な腫瘍細胞抑制機構を示すものとして明らかになっています。つまり、細胞の腫瘍化を防ぐために細胞が老化するというものです。老化細胞からは老化に関連した分泌性因子、SASP(Senescence Associated Secretory Phenotype)が生産され、腫瘍細胞を含む細胞の成長停止、すなわち老化を導くことが知られています。生理状態でのSASPの主な役割は、免疫細胞を惹起して、腫瘍の発生を回避するために老化細胞を排除することが知られていますが、その一方で炎症を介した正常細胞へのダメージを与えることも明らかとなっています。一般的に、正常細胞へのダメージは細胞の腫瘍化につながることがあります。

最初は腫瘍抑制機構として考えられていた化学療法治療の結果として、細胞老化が引き起こされることが確認されています。化学療法後の老化は、特に免疫細胞が老化し、老化した腫瘍細胞を排除できない場合に、癌の進行を促進し得ることが明らかとなっています。さらに、細胞老化自体が炎症を引き起こし、免疫老化につながることで、免疫細胞を機能不全に陥らせる原因と考えられています。本稿のシリーズでは、免疫細胞の老化を含む様々なタイプの老化、それらを活性化する経路、およびこれらのイベントにおけるSASPの機能を紹介します。さらに、癌とその治療における老化と、化学療法がどのように癌の老化に寄与しているかを含めて、癌とその治療における老化の役割を説明します。最後に、細胞老化とがん免疫療法の可能性について紹介します。

 

・細胞老化と腫瘍細胞について

細胞老化は、細胞の宿命であり、成長を停止した特徴を持ちます。老化細胞は、細胞分裂や細胞死(アポトーシス)に対して抵抗性を持ち、さらに休止状態にある老化細胞では特定の条件下で再度活性を持つようになることが確認されています。また、老化細胞では細胞の形態が変化しており、老化に関連した因子の分泌、SASPが生じていることも知られています。老化細胞と腫瘍細胞の類似点として、腫瘍細胞のうち、根源である癌幹細胞も老化細胞と同様に休止状態にあるため、細胞分裂や細胞死を標的とした抗癌剤では、腫瘍細胞は叩けても癌幹細胞を叩けずに再発が引き起こされることが示されています。

また、細胞は細胞分裂の度に生じるテロメアが短縮していき、特定の回数以上分裂すると、細胞分裂を不可逆的に停止、つまりテロメア依存的に老化が生じ、さらには持続的なDNA損傷反応を誘発します。DNAの損傷は細胞の癌化にも関連しており、もし損傷したDNAを持つ老化した細胞がそのまま増殖性を持っているとすれば、加齢または細胞老化によって癌化しやすい細胞がどんどん増えていくことになりますが、先述の通り老化細胞は基本的に増殖しないため、これらの事象は、損傷を受けた細胞の増殖を回避することで癌の発生を防ぐ生理的メカニズムであると仮定されています。実際に、腫瘍細胞はテロメアを合成するテロメラーゼ活性を持ち、再増殖を可能にさせますが、この活性部位を抑制する抗癌剤、つまり細胞を停止、眠ったままにさせる薬剤が既に開発されています。

本稿では、一般的な細胞老化と腫瘍細胞との関係について、簡単に述べてきました。次回の記事では、免疫細胞の老化を中心に説明していきます。

 

・参考文献

  1. Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 4346;
  2. Nature 566, 46-48 (2019)
  3. Cancers 2020, 12, 2976
  4. 領域融合レビュー, 7, e005 (2018)

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