がん免疫療法コラム
治療効果と利便性の向上につながる抗体改良技術 Part.3 :リサイクリング抗体
世界中で急速に発展している抗体医薬品
抗体医薬品はがん免疫療法でも免疫チェックポイント阻害剤として用いられる治療薬で、抗PD-1抗体・抗体PD-L1抗体などがその代表です。また、がん免疫療法以外にも抗体医薬品は用いられており、抗体医薬品の重要性は増しています。
高い治療効果が期待できる抗体医薬品は、世界中で抗体医薬品の開発が進められています。実際に、2020年までに約70種類の抗体が日本で医薬品として承認されています。
今回は、抗体の価値最大化を目指した成果のひとつであるリサイクリング抗体(二重特異性抗体)を紹介します。
リサイクリング抗体とは?
通常の抗体は、抗原と結合した後に細胞内へ取り込まれて消失してしまうため、1つの抗体が抗原と結合する機会は一度しかありません。これでは、投与した抗体の量に対して抗原の量が多い場合は十分な効果が得られません。この課題を解決するために開発された抗体がリサイクリング抗体です。
このリサイクリング抗体には、抗体の基本的な形である「Y」の分岐していない下側(Fc領域)が重要な役割を果たしています。1960年代の研究で、抗体のFc領域と生体内に存在する胎児性Fc受容体(neonatal Fc receptor:FcRn)の親和性が高い場合、その抗体は体内で分解されにくいことが分かりました。この特徴を利用して開発された抗体がリサイクリング抗体です。リサイクリング抗体は、通常の抗体と比較して血液中で存在できる時間が長くなっています。さらに、抗原と複数回結合できるため、抗体の価値をさらに高めることに繋がります。
日本で承認されているリサイクリング抗体
2020年6月に、視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防に用いるエンスプリング(中外製薬株式会社)が日本で初めてリサイクリング抗体として承認されました。また、現在臨床試験中のリサイクリング抗体もあります(開発コード: SKY59/RG6107、AMY109)。
残念ながら、2021年2月時点でがん免疫療法に用いるリサイクリング抗体は承認されていません。しかしながら、がん免疫療法治療薬としてのリサイクリング抗体が誕生すれば、より高い治療効果が期待できるでしょう。
[参考資料]