がん免疫療法コラム
新たな免疫チェックポイント阻害剤:2つの標的を持つ融合タンパク質
新しい免疫チェックポイント阻害剤
抗PD-1抗体であるオプジーポ®が2014年7月に世界で初めて免疫チェックポイント阻害剤として承認されました。その後、PD-1に加えてCTLA-4やPD-L1を標的とした抗体がいくつか承認され、免疫チェックポイント阻害剤は高い治療効果が期待できる治療薬として現在でも研究開発が盛んに行われています。
最近では、標的を変えるのではなく抗PD-L1抗体にTGF-βを標的とするタンパク質を融合することでより高い治療効果が見込める新たな免疫チェックポイント阻害剤の開発が進められています。
TGF-βの働きと融合タンパク質の作用
TGF-βはトランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor-β)と呼ばれ、細胞増殖抑制やアポトーシス抑制など多くの作用を持つことが知られています。また、TGF-βのがん細胞に対する作用は病期によって異なり、進行期ではTGF-βが血管新生や免疫抑制といったがんの進行を促進させる方向に働きかけることが分かってきました。
つまり、がん細胞に存在するTGF-βの働きを抑えることで抗腫瘍効果が得られる可能性があり、実際に抗PD-L1抗体とTGF-β阻害剤を融合させたタンパク質を投与することで抗腫瘍効果が確認されています。
抗PD-L1抗体とTGF-β阻害剤の融合タンパク質であるbintrafusp alfaは現在日本でも臨床試験が行われています。PD-L1発現進行非小細胞肺癌に対しては第2相試験が、未治療の胆道癌に対しては第2/3相試験が実施中です。また、海外の臨床試験では子宮頸癌などのヒトパピローマウイルス関連癌に対する有効性が確認されています。
PD-L1など1つの標的では効果が不十分であったがんに対しても2つの標的を持つ融合タンパク質では抗腫瘍効果が認められたケースも報告されています。bintrafusp alfaのような融合タンパク質の研究開発が進むことで、より効果的な治療効果を持つ新たな免疫チェックポイント阻害剤が誕生するかもしれません。
[参考資料]
https://www.merckgroup.com/jp-ja/press/mbj/2020/200520_News_Release_ASCO_2020_Curtain_Raiser_JP.pdf