がん免疫療法コラム
白血病について Part.3
白血病の治療方法はさまざまです。なかでも急性前骨髄球性白血病は治療方法の開発により死亡リスクが大きく改善された白血病です。今回は、「急性前骨髄球性白血病」について考えてみたいと思います。
急性前骨髄球性白血病
急性骨髄性白血病はFAB分類ではM3として分類される白血病です。FAB分類というのは、細胞の形や染色したときの様子などで分類する方法です。ちなみに白血病の分類には、分子生物学的な分類方法もあり、これはWHO分類とも呼ばれています。
急性前骨髄球性白血病は、前骨髄球のがんです。英語ではAcute Promyelocytic Leukemiaと言うことからAPLとも呼ばれています。
前骨髄球は、トロンボプラスチンに似た物質を多く含んでいます。トロンボプラスチンは血液凝固に関わっており、このAPL、つまり、急性前骨髄球性白血病では血液凝固に関わる病態が現れやすいのが大きな特徴です。
具体的には播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群という症候群が起こりやすくなります。
本来、血液には、出血したときにその場所で凝固するような仕組みが備わっています。ところが、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群では、全身の血管内で無秩序に起こってしまうのです。
血液凝固により血栓が発生しやすくなります。また、血液凝固には血小板が必要です。血液中には血小板も含まれていますが、無駄に血液凝固が起こると、本来必要な場面で血小板が足りなくなります。この結果、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群では、必要箇所での出血が止まらないという症状も発生します。
また、体内では不要になった止血血栓や、過剰に形成された病的血栓を取り除く働きもあります。これを線維素溶解(線溶)と言います。
それじたいはよくできた仕組みです。ところがAPL細胞では、線溶活性化を促す作用のある物質を多量に放出してしまいます。
このため、APL、つまり、急性前骨髄球性白血病では、脳出血なども起こりやすく、早期の死亡リスクの高い白血病でした。
急性前骨髄球性白血病の原因と治療方法
APL、つまり、急性前骨髄球性白血病の直接の原因は、15番染色体と17番染色体の転座[t(15;17)]と呼ばれる染色体異常です。
この染色体異常の結果、分化・成熟プロセスが滞ってしまい、骨髄や末梢血中で前骨髄球が増加してしまうのです。
ところが、オールトランスレチノイン酸(ATRA)という物質を投与すると、染色体異常を起こした前骨髄球の分化・成熟プロセスが先に進むことがわかりました。また、過剰な線溶活性化を防ぐこともわかりました。
このATRによる分化誘導療法により、APLは死亡リスクの高い白血病から、最も予後良好な急性骨髄性白血病になりました。
まとめ
APL、つまり、急性前骨髄球性白血病は、早期に治療を開始すれば、治療しやすい病気になりました。このように、治療方法の開発によって状況が劇的に変わることもあるのががん治療です。次回では他の白血病の治療方法についても触れたいと思います。
参考文献
押味和夫 監修『WHO分類第4版による白血病・リンパ系腫瘍の病態学』中外医学社、2009年
直江 知樹他 編『WHO血液腫瘍分類』医薬ジャーナル社、2010年
宮内潤、泉二登志子 編『骨髄疾患診断アトラス : 血球形態と骨髄病理』中外医学社、2010年
浦野哲盟、後藤信哉 著『血栓形成と凝固線溶』メディカル・サイエンス・インターナショナル,2013.