がん免疫療法コラム
がん細胞治療の開発動向
日米欧で承認されたキムリアの成功に刺激されて、がんの免疫細胞治療の開発は世界的に盛んになっています。2020年5月に米国Cancer Research Instituteは、がんの細胞治療の最新動向について調査結果を発表しました。 [1] 信頼できる公的に入手可能な情報を基にして、バイアスのない中立で科学的な分析を行ったものです。 [2]
がん細胞治療は2020年の調査では世界で1483種類ありました。前年の調査より472 増加しています。大半は研究段階のもので、治療法として承認されているものは3件のみでした。
細胞治療のタイプ別では、CAR-T細胞療法が最も多く858種類でした。他にNK細胞やNKT細胞、新規のT細胞療法、腫瘍関連抗原(TAA)/腫瘍特異抗原(TSA)標的T細胞療法、T細胞受容体(TCR)T細胞療法、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、その他の細胞療法があります。
何を標的としているかで分類すると、血液がんを対象としたものでは、CD19が203種類で最も多く、続いてB細胞成熟抗原(BCMA)が65、CD22が27となっています。
CD19はB細胞に特異的なタンパク質で、キムリアはCD19を標的とするCAR-T細胞療法です。キムリアに続いて多くのCD19標的CAR-T細胞療法が開発されています。CD19標的CAR-T細胞療法は難治性や再発性のB細胞性の急性リンパ性白血病などに対して70〜90%の完全寛解率が得られますが、約半数の患者は1年以内に再発します。再発患者にはCD19抗原の消失や変異が多く見られ、CD19 CAR-Tを再度行っても効果はあまり期待できません。 [3]
CD22は再発又は難治性のB-ALL患者のがん化細胞に高発現していますが、正常B細胞には限定的にしか発現していません。そこでCD19 CAR-T細胞療法後に再発したB-ALL患者に対する治療としてCD22を標的としたCAR-T細胞療法が期待されています。3 また、CD19とCD22の両方を標的としたCAR-Tも開発されています。[4]
BCMAは形質細胞や成熟B細胞に発現している抗原ですが、多発性骨髄腫患者の骨髄悪性形質細胞の表面上で過剰発現します。そのため、多発性骨髄腫の治療標的として注目されています。[5]
固形がんについては、腫瘍関連抗原が開示されていない細胞療法が最上位となっています。乳がん、卵巣がん、胃がんなどで見られるHER2、神経芽細胞腫をはじめ乳がんや様々ながんのマーカーになるGD2が続いています。
最後に、臨床試験の結果が公表されているものについて、その内容を調べています。血液がんでは、202試験中192の試験でポジティブな結果が得られていました。固形がんでは126試験中119試験でポジティブな結果が得られています。大半の試験はPhase IやPhase IIの主に製品の安全性を調べる目的の試験でデータが限られていること、ネガティブな結果は公表されない可能性があるため、ポジティブな結果に偏る可能性があることに注意が必要と指摘しています。
こうして見てきたようにがんの免疫細胞治療は細胞の種類や標的などさまざまなタイプの治療法の開発が行われていて、件数も急激に増加しています。まだフェーズが早い段階のものが多く、その効果については検証が待たれますが、今後の進展が期待されます。
[1] Cancer cell therapies: The clinical trial landscape, Nature Reviews Drug Discovery, May 2020. (https://www.nature.com/articles/d41573-020-00099-9)
[2] “Cancer Cell Therapy Landscape”, Cancer Research Institute (https://www.cancerresearch.org/scientists/immuno-oncology-landscape/cancer-cell-therapy-landscape)
[3] “CD22 CAR T-cell therapy in refractory or relapsed B acute lymphoblastic leukemia”, Leukemia 2019; 33: 2854–2866 (https://www.nature.com/articles/s41375-019-0488-7)
[4] “Safety and efficacy of CD19/CD22 CAR T cells in children and young adults with relapsed/refractory ALL”, 2020 AACR Virtual Annual Meeting; April 27-28, 2020. Abstract CT051. (https://www.abstractsonline.com/pp8/#!/9045/presentation/10759)
[5] “Anti-BCMA CAR T-Cell Therapy bb2121 in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma”, N Engl J Med 2019; 380:1726-1737 (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1817226)