がん免疫療法コラム
がんを引き起こすウイルス Part.5
出典:日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
これまでがんを引き起こすウイルスとしてちHBV(B型肝炎ウイルス)とHCV(C型肝炎ウイルス)、EBV(エプスタイン・バールウイルス)について述べてきました。今回のテーマはヒトパピローマウイルス(HPV)です。
ヒトパピローマウイルス(HPV)とは?
HPVはヒト乳頭腫ウイルスとも言い、乳頭状などのイボ(腫瘍)を生じることのあるウイルスです。環状の2本鎖DNAを持つウイルスですが、非常に多くの遺伝子型があり、それぞれの型と疾病との間に相関関係があります。
成人の80~90%以上が、少なくともどれかの型に感染したことがあるだろうと言われており、子供でも感染しています。通常は特に症状を見せることもなく体内から排除されます。
もっとも、免疫を誘導しにくい感染形態です。感染した細胞を破壊したり、ウイルス粒子を大量に放出させることがないからです。このため、同じ型でも感染が何度も起こると考えられています。
HPVが引き起こすがんHPVは多数の遺伝子型がありますが、
・尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)や尖圭(せんけい)コンジローマなどの良性腫瘍を引き起こすローリスク型と
・子宮頚がんなどの悪性腫瘍を引き起こすハイリスク型
に分類されます。
疣贅(ゆうぜい)というのは、皮膚の一部が盛り上がってできる小さなできもの、つまり、イボのことです。ウイルスの種類によってできる場所や形には違いがありますが、基本的に良性です。
尖圭コンジローマは、男女の性器や肛門周辺やなどに先のとがった乳頭状、鶏冠状(カリフラワー状)などの疣贅(いぼ)を生じます。
ハイリスク型は子宮頚がんの原因となることが知られていますが、陰茎がんの原因にもなります。
子宮頚がんの死亡者数は日本では年間2800人、罹患者は年間1万人ほどいます。
子宮頚がんの原因ウイルスとしては、主にHPV16、18型があります。
HPVはなぜがんを引き起こすのか?
HPVは非常に多くの人が感染するウイルスですが、必ずしもがんを引き起こすとは限りません。それは、第一に、HPVの型によりがんを引き起こすものとそうではないものがあること、第二に、HPV感染が長期間持続しないとがんに至らないからです。
がん発生の過程では、「正常な細胞とは異なる形の細胞」を生じる異形成という状況が起こります。もっともこの段階では自覚症状はない場合がほとんどです。
まとめ
HPVウイルスはありふれたウイルスです。ただ、がん発生の原因になる型もありますので感染しないことが望ましいと言えます。ワクチンや定期検診などの手段もありますので、可能な範囲で然るべき対応をして防ぎたいものです。
参考文献
日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」(2019年12月9日)http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
江川清文「ヒトパピローマウイルスと皮膚疾患」ウイルス 第58巻 第2号,pp.173-182, 2008
Westrich, Joseph A.; Warren, Cody J.; Pyeon, Dohun; et al. (2017). “Evasion of host immune defenses by human papillomavirus”. Virus Research 231: 21?33. doi:10.1016/j.virusres.2016.11.023. PMC: 5325784. PMID?27890631.
日本性感染症学会「性感染症 診断・治療 ガイドライン2016」 (pdf) 『日本性感染症学会誌』第27巻1 Supplement、2016年11月http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2016.pdf