がん免疫療法コラム
がんを引き起こすウイルス Part.4
がんを引き起こすウイルス(4) Vol.73
これまでがんを引き起こすウイルスとしてちHBV(B型肝炎ウイルス)とHCV(C型肝炎ウイルス)について述べてきました。もっとも、実はもっと身近なところにがんを起こし得るウイルスがあります。そのひとつがEBウイルスです。
エプスタイン・バールウイルス(EBV)とは?
HBVとHCVの日本国内における感染者数は2010年の時点で合計250万人程度ではないかという推計があります。これに対して、成人の90%以上が、少なくとも感染したことがあるだろうと言われるのがエプスタイン・バールウイルス(EBV)です。
なお、エプスタイン・バールウイルス(EBV)という名前は、発見者エプスタインとバールに因むものです。現在の学名はヒトヘルペスウイルス4型ですが、エプスタイン・バールウイルス(EBV)という名前も慣用されていますので、ここでは、EBVと表記します。
EBVが引き起こすがん
EBVが引き起こすがんとしては、悪性リンパ腫、胃がん、上咽喉がん、平滑筋肉腫、唾液腺がんなどさまざまです。
また、EBVは伝染性単核球症の原因ともなり、この場合、予後が悪いと慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)という病態として認識されます。最近では、これも血液がんだという研究報告があります。
なお、伝染性単核球症はEBVの感染が原因ですが、EBVによるがんが伝染するという意味ではありません。伝染性単核球症は発熱や咽頭痛などを引き起こしますが、通常、1ヶ月程度で症状は消えます。
EBVはなぜがんを引き起こすのか?
EBVは実質的にほとんどの人が感染するウイルスです。しかも、かなりの確率で、潜伏感染状態になります。つまり、症状としては現れませんが、感染した状態を維持するのです。
それほどありふれたウイルスであり、しかも、ほとんどの場合、重篤な症状には至らないにもかかわらず、なぜ一部の人にのみがんを発症させるのかは十分に解明されていません。
がん化するということの背景には、遺伝子変異の蓄積があります。EBVの場合、それとともにEBVが本来持っている遺伝子の欠損という現象があるようです。EBVの遺伝子約 80 個(ちなみにヒトの遺伝子は約2万個です)のうちいくつかが欠損し、それに伴って残りの遺伝子が異常に活性化するのです。
まとめ
EBVによるがんは発生数が多いとは言えませんが、EBVはありふれたウイルスです。早く全容が解明されてがん治療の道が開けることを期待したいものです。
参考文献
田中英夫、伊藤秀美、内田茂治、石川喜樹「日本国内の B 型および C 型肝炎ウイルス感染者数は? -献血者スクリーニングデータを補正して-」JACR Monograph No.20 第 1 部:論文集,pp.29-38, 2014
Yusuke Okuno他 “Defective Epstein-Barr virus in chronic active infection and related hematological malignancy”, Nature Microbiology (2019 年 1 月 21 日付(英国時間)電子版に掲載)
DOI:10.1038/s41564-018-0334-0
西蓮寺剛「EB ウイルス感染と発がん」ウイルス 第52巻 第2号,pp.273-279, 2002