がん免疫療法コラム
がんを引き起こすウイルス Part.3
がんを引き起こすウイルス(3) Vol.72
前回は肝臓がんのうちHBV(B型肝炎ウイルス)を原因とするものについて述べました。しかし、実は肝臓がんの原因となるウイルスはHCV(C型肝炎ウイルス)によるものが大半を占めています。今回はそのHCVについて見ていきたいと思います。
肝炎の原因となるウイルス
肝臓がんの主な要因は、HBV(B型肝炎ウイルス)やHCV(C型肝炎ウイルス)の持続感染による慢性肝炎です。
ところで、B型肝炎とかC型肝炎とか言うのにA型肝炎はないのか、と思われるかもしれません。実は、あります。
肝炎を引き起こすウイルスとしては、実はA型肝炎ウイルスからE型肝炎ウイルスの5種類が知られています。A、B、C、D、Eの5種類があるわけです。厳密にはこのほかのウイルスによる肝炎もあると考えられますが、一般的にはこの5種類です。
もっとも、D型肝炎は少なくとも日本では稀なので、基本的に問題になるのは、A、B、C、Eの4種類です。
さらに、A型肝炎とE型は基本的には急性肝炎を引き起こすものの、肝臓がんにはつながりません。そのため、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスが問題になってくるのです。
C型肝炎ウイルスのワクチン
ところで、前回、B 型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの定期接種について触れました。しかし、C型肝炎ウイルス(HCV)ワクチン定期接種はありません。
なぜなら、HCVワクチンがないからです。
そもそも、HBVやHCVなどというと、似たようなウイルスという印象を抱かれがちです。例えば、インフルエンザでもA型、B型、C型とありますが、これらの原因であるインフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科という同じ属のウイルスです。
一方、HBVとHCVは全然違うウイルスです。HBVはヘパドナウイルス科に属するDNAウイルス、HCVはフラビウイルス科に属するRNAウイルスです。
DNAウイルスは遺伝情報がDNA上にあるウイルス、RNAウイルスはRNA上にあるウイルス です。通常、RNAウイルスは変異しやすいウイルスです。
そのあたりのこともあり、HCVにはワクチンがありません。
HCV(C型肝炎ウイルス)の除去
ワクチンはありませんが、治療法はあります。基本は抗ウイルス療法です。つまり、体内のウイルスをやっつけてしまう治療法です。
C型肝炎の抗ウイルス療法では以前はインターフェロン治療が主流でした。インターフェロンは、本来は、体内の細胞が放出するサイトカイン(免疫系や炎症の調節などの働きをするタンパク質)の一種です。それを遺伝子組み換えで大量生産して投与する方法です。
ただ、インターフェロン治療には副作用もあるため、2014年以降は、インターフェロンを使わない「インターフェロンフリー」治療が行われるようになっています。
現在では、これらの治療法により、HCVを体内から排除することも可能になっています。
まとめ
HCVを体内から排除できるとしても、肝炎が進行してしまうとそれが治るわけではありません。
そのため、早い段階でHCVを身体から排除することが重要です。肝炎じたいは、健康診断などの血液検査でAST(GOT)値やALT(GPT)値を見ることでも評価できますが、HCV感染の有無を見るためにはHCV抗体検査が必要です。これも血液検査でできますので、検査されたことのない方は、一度、念のために検査されるのが良いでしょう。
参考文献
国立研究開発法人 肝炎情報センター「C型肝炎」(2019年6月21日)
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/c_gata.html
(公財)ウイルス肝炎研究財団「肝炎の現状」
https://vhfj.or.jp/hepatitis/(2020年5月25日閲覧)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
「新たなC型肝炎ウイルス感染予防ワクチンの開発」(2016年10月27日)
https://www.amed.go.jp/news/release_20161027-02.html
矢田豊「ウイルス肝炎の最新治療と今後の展望」超音波検査技術41 巻 1 号 p. 32-42(2016)
NIID 国立感染症研究所「C型肝炎とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/hepatitis/hepatitis-c.html(2020年5月25日閲覧)