がん免疫療法コラム

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免疫の記憶力 <その効力と有効期限> Vol.63

3月11日にWHO(世界保健機関)が「新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)」に対する「パンデミック(感染症の世界的流行)宣言」を表明しました。今後も世界中でその広がりと多岐にわたる影響が懸念されています。

その中で、これは国内で大きく報道されましたが、陽性と診断された患者さんが、一旦、陰性と判断され、その後、再び陽性と診断された例が大阪府で確認されました。一人の患者が短期間のうちに、同じ感染症に二度陽性になりました。明確な理由は発表されていませんが、検査の感度の問題、再燃や再感染の可能性が指摘されています。

ある感染症に一度感染すると二度は感染しない、いわゆる「二度なし」という性質が免疫にはあります。この免疫の性質を利用して行われているのが予防接種です。病原体などから攻撃を受けた時の記憶を残す仕組みが、免疫には備わっています。これを「免疫記憶」と言います。今回は、この「免疫記憶」にスポットを当てたいと思います。また、「二度なし」が通用しない例外もあります。それらの説明と併せ、先の再度陽性になった患者さんに対する専門家の見解についても触れたいと思います。

■免疫記憶とは

人体に細菌やウイルスなどの異物が侵入してくると、T細胞やB細胞が活性化されて増殖します。そして、その多くは異物を排除しようと働き、役目を終えると死んでしまいます。ところが、一部の細胞は「記憶細胞」となりそのまま生き続けます。この「記憶細胞」の存在によって、多くの場合、一度かかった感染症には二度かからなくなる、もしくは、かかっても症状が軽くて済むのです。この「記憶細胞」には「メモリーT細胞」と「メモリーB細胞」があり、見張り番としてリンパ節などに留まります。

2回目の感染があると、これらの細胞が迅速かつ効率よく反応します。1回目の感染時には、免疫細胞はいくつかの過程を経て活性化されますが、2回目の感染時には「記憶細胞」の存在によってその過程が省略されます。具体的には「メモリーT細胞」と「メモリーB細胞」がそれぞれ「エフェクター細胞」と呼ばれる活性化された免疫細胞に変身し、その数を一気に増やすことで、迅速かつ効率よく反応することが可能となります。

 

■免疫記憶が機能しない、もしくは、一時的にしか機能しない例

先述のように一度感染する、その病原体に対して、その後も免疫が見張り番として警戒態勢が敷かれます。終生にわたって見張り番をすることができるタイプの免疫を、終生免疫(しゅうせいめんえき)と言います。はしか、みずぼうそう、おたふく風邪などに対しては、終生免疫によって人体を守ることが出来ます(以降、表1参照)。

ところが、終生免疫のように免疫が一生ある病気から体からを守ってくれるケースと、そうでないケースがあります。
インフルエンザウイルスや赤痢菌などは頻繁に遺伝子変異を起こして形を変えるので、免疫が働きにくくなります。そのため、インフルエンザなどは予防接種を毎年受けなければならないのです。また、ヘルペスウイルスは神経に沿って移動して神経節に潜伏します。同じようにサイトメガロウイルスは骨髄系の幹細胞に潜伏することが確認されています。さらにT細胞への抗原提示やNK細胞の活性化を阻止しながら、免疫からの攻撃を回避しているという報告もあります。

なお、最近では、抗生物質などの薬剤によって短時間で回復する機会が増え、その結果、皮肉にも十分な免疫が得られないというケースもあると言われています。

 

さて、では冒頭の大阪の患者さんは、どのような状態にあったと考えられるのでしょうか。
一般的なコロナウイルスの場合、感染後に免疫ができますが、終生免疫という訳にはいかず、免疫反応は徐々に弱まっていきます。従って、一旦は完治したものの、免疫が持続せずに新たに感染した可能性があります。しかし、患者さんは自宅静養しており、外部との接触が制限されていたため、再度、COVID-19に罹患した可能性は低いとされています。

残ったのは、検査が偽陰性であったか、体内に残っていたウイルスが再燃した可能性です。再燃に関しては、風邪がぶり返すのと同様な話しなら良いのですが、免疫が長期間持続しない可能性や免疫が十分にできない可能性が指摘されています。同ウイルスに対する「免疫の記憶力」がどの程度のものなのか、これはワクチンの有効性にも関わる問題であり、今後報告されるであろう研究成果の中で特に注視すべき項目と言えるでしょう。

 

(3.22追記)
[3.16に科学雑誌Nature Medicineに掲載されたCOVID-19症例報告]
特別な処置をせずに回復した患者さんにおいて、獲得免疫系おける免疫応答が認められています。
【年齢・性別】47歳、女性
【発症までの経過】中国武漢を旅行。オーストラリア メルボルンにて発症
【症状】倦怠感、のどの痛み、せき、深呼吸に伴う鋭い胸痛、発熱など
【程度】軽度から中等度
【処置】脱水症状防止のための点滴のみ(酸素補充や薬物治療なし)
【発症後の経過】症状が確認された日をD0としてD4-6はウイルス陽性。D7で陰性に。D13には自覚症状が完全に消失。
【免疫に関する知見】
患者の血液サンプルからプラズマ細胞(分化したB細胞)、 濾胞ヘルパーT細胞と活性化されたT細胞 (CD4+ とCD8+ T細胞) を検出。
さらに抗体(IgM とIgG)をD7に検出。そこから抗体の増加が確認され、D20時点でもその増加が持続していることが認められた(D7にはウイルスが陰性になっているので、その後、少なくとも約2週間は抗体が増加している状態が持続していることになる)。
また、種々のサイトカイン等の測定結果からその動態が「鳥インフルエンザA(H7N9)」に似ていることが分かった。

 

参考文献

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