がん免疫療法コラム
リンパ系とリンパ節転移
■リンパ系とは?
がんに関連してリンパ節の存在は重要です。その点に関しては後述するとして、まず、リンパ系について概略を説明しましょう。
リンパ系とはリンパ液の体内循環に関連するシステムです。
そもそも細胞に栄養や酸素を送っているのは血管ですが、一般的には、細胞が血管とつながって直接、栄養や酸素を受け取っているわけではありません。細胞は組織液に浸っており、組織液から栄養や酸素を受け取り、組織液に老廃物を排出しています。細胞は組織液を通じて血管と物質のやりとりをしているわけです。この組織液を間質リンパと呼びます。
それではその組織液はどこから来るかと言えば、これは毛細血管です。動脈側の毛細血管から押し出された液体が組織液になります。組織液の大部分は細胞に栄養などを供給するとともに老廃物を受け取った後、静脈側の毛細血管などに戻り静脈血の成分として心臓へと運ばれていきます。
もっとも、一部の組織液は毛細リンパ管に入り、これは管内リンパ液となります。
(出典:SEER; Tossh_eng for Japanese labels – U.S. National Cancer Institute’s Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) Program (http://training.seer.cancer.gov/index.html))
管内リンパ液は、リンパ節を経て最終的には血管に戻っていきます。リンパ節はリンパ球の詰まった濾胞と髄質からなっており、これは免疫機能の基地のような働きをしています。
この他のリンパ組織を含め、人体のリンパ系はおおよそ下図のように構成されています。1ヶ所大きな部分(Spleen)がありますが、これは脾臓です。
(出典:Blausen.com staff (2014). “Medical gallery of Blausen Medical 2014“. WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 2002-4436)
■がんはなぜリンパ節転移をするのか?
上記のようにリンパ節には異物を除去する免疫細胞であるリンパ球がたくさんいるわけですが、それがリンパ節転移として問題になるのはなぜでしょう。そこにはリンパ系独特の問題があります。
まず、リンパ液はリンパ管内を流れるのですが、人間のリンパ系には心臓のようなポンプがありません(両生類や爬虫類にはあります)。筋肉の動きによってリンパ液が流れますが、動脈のような高い圧力は掛かっていません。そのこともあり、リンパ管の内壁は薄く、がん細胞が侵入しやすくなっています。
このため、近隣の原発巣で生じたがん細胞がリンパ管に侵入し、ゆっくりした流れのリンパ液に乗ってリンパ節にやってきます。
多くの場合、がん細胞はリンパ節で免疫機構により攻撃を受けますが、リンパ節は全身で600ヶ所あり、生き残ることもあります。リンパ液の流れも弱いためがん細胞がリンパ節で増殖し転移巣となるわけです。さらに別の組織まで転移していくこともあります。これをリンパ行性転移と呼びます。
なお、動脈の内壁は厚いためがん細胞が侵入することは少ないのですが、静脈でもリンパ管と同様のことが起こり得ます。このように静脈を介した転移は血行性転移と呼ばれます。
参考文献
- “Definition of lymphatics”. Webster’s New World Medical Dictionary. MedicineNet.com.
- SEER; Tossh_eng for Japanese labels – U.S. National Cancer Institute’s Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) Program (http://training.seer.cancer.gov/index.html)
- Blausen.com staff (2014). “Medical gallery of Blausen Medical 2014“. WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 2002-4436