がん免疫療法コラム

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細菌に対する免疫の働き 

(出典:参考文献1;青い球体が細菌)

■細菌とは?

細菌は、通常1~10 μmほどの大きさの微小な生物です。人間との関係で言えば、感染症を引き起こす細菌(コレラ菌や結核菌など)もありますし、人間に役立つ細菌(納豆菌や乳酸菌、酵母菌など)もあります。

また、腸内細菌は種類にして数百種類、個数にして百兆個とも言われています。腸内細菌は、いわゆる善玉菌・悪玉菌・日和見菌からなります。人間にとってプラスになる細菌、マイナスになる細菌、場合によりどちらにもなる細菌、その関係はさまざまです。

細菌は顕微鏡を使わなければ見ることはできません。しかし、例えば、便の半分くらいは細菌です。人間がいかに細菌に囲まれて生きているかわかるのではないでしょうか。

なお、「菌」と名の付く生物のグループとしては「真菌」もありますが、真菌はカビやキノコの仲間であり、細菌とは別物です。

 

■細菌に対する免疫の働き

ウイルスは動植物の細胞に感染した後、その内部で増殖します。これに対し、細菌は細菌にとっての栄養があればそれ自身で増殖します。もっとも、ウイルス同様、細菌にも細胞内でのみ増殖するものはあります(例えば、クラミジア)。

細菌が生物の体内で増殖しても、宿主に悪影響を及ぼすとは限りません。例えば、大腸菌は腸内に大量に生息していますが、通常は問題を起こしません。ただ、同じ大腸菌でもO-157のように有害な大腸菌もいます。これは細胞外に毒素を放出することなどにより宿主に害を及ぼします。

細菌に対する免疫の働きは、これまでこのコラムで述べてきた免疫の働きと重なる部分が少なくありません。

今回は「補体」に絞って説明しましょう。

補体はVol.48「補体依存性細胞障害」の項で少し登場しましたが、タンパク質のグループです。基本的なものとしてはC1~C9まであります。Cが付くのは補体を英語で言うとcomplememtだからです。

細菌に抗体が結合すると、されにこれに補体が結合し活性化されます。これが冒頭の図のいちばん上にある”C1 Complex”の状態です。この後は、Complement Cascadeというカスケード(連鎖的に進むドミノ倒し的な現象)により、最終的に、いくつかの補体が結合して細菌表面にドーナツ状の複合体を形成します。

これは、膜侵襲複合体(membrane-attack complex : MAC)といわれ、これによって細菌の細胞膜に小さな孔を開けてしまいます。こうして細菌を死に追いやるのです。

 

■細菌とがんとの関係

補体による免疫機構をがん細胞に適用したものとしては、がん細胞の表面に抗体医薬品を結合させる方法があります。この抗体医薬品をきっかけに上記の補体カスケードを起こさせ、最終的に膜侵襲複合体を形成してがん細胞を殺傷する手法です。

この他に、がん細胞と細菌の関わりで言えば、ピロリ菌感染が胃がんを引き起こすことが有名です。

また、特定の細菌を遺伝子改変してがん細胞のみに感染させ増殖させる方法によるがん治療法も提案されています。

 

参考文献

  1. English text of ‘Image:Complement pathway.png’ by DO11.10 German translation of ‘Image:Complement pathway.png’ by HdumanGalician translation MiguelferigCatalan translation LeptictidiumSVG by Perhelion – 次の画像を基にした投稿者自身による作品: http://www.niaid.nih.gov/publications/immune/the_immune_system.pdf, パブリック・ドメイン
  2. Kenneth Murphy, Casey Weaver “Janeway’s Immunobiology” 9th Ed., Garland Science (2016)
  3. バクテリアから生きものの基本を探る― O157が生まれた理由:林 哲也 https://www.brh.co.jp/publication/journal/031/ss_2.html
  1. 日本細菌学会 ようこそ不思議な細菌の世界へ  http://jsbac.org/youkoso/index.html

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