がん免疫療法コラム
話題のCAR-T細胞療法について
昨年、CAR-T細胞療法の「キムリア」という製品ががんに対する初めての再生医療等製品として薬事承認され、保険適用になりました。CAR-T細胞療法は患者の血液からリンパ球の一種であるT細胞を体外に取り出して、がんを識別し攻撃する機能を高めるための遺伝子操作をした上で、細胞を増やしてから、患者に戻す治療法です。
承認時の審査資料1によると、キムリアは、白血病の一種のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の再発又は難治性の3歳から21歳以下の患者に対して行われた国際共同臨床試験で、日本人2名を含む75名の患者に対して全寛解率82%を示しました。また、18歳以上の再発又は難治性の成人びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者を対象とした国際共同臨床試験で、日本人2名を含む81名の患者に対して、奏効率53%という成績を示しました。いずれも再発・難治性の患者に対する治療法は限られている中で、画期的な成績が評価され、これらの2つのがんを適応とした治療として承認されました。
期待の高まるCAR-T細胞療法ですが、課題もあります。製造に5〜6週間かかること、患者によってはCAR-T細胞が十分増えずに投与が行えない場合があること、遺伝子操作という高度な技術を使って製造するため、製造コストがかかり非常に高額な薬価(約3349万円)であること、副作用としてサイトカイン放出症候群などが起こりやすいことなどです。現在「キムリア」はその使用方法を理解し副作用に対して十分な対応がとれる限られた医療施設のみで使用可能となっています。
このような課題を解決するために、世界中でさまざまな新しいCAR-T細胞療法の開発が進められています。製造やコストの問題については、患者の細胞を使用するのではなくて、iPS細胞のセルバンクからCAR-T細胞をあらかじめ大量に製造してストックしておくという方法が考えられ、複数の企業が開発を進めています2,3。血液がんで高い治療効果を発揮したCAR-T細胞療法を固形がんへも適応できるようにするための開発も進められています4。サイトカイン放出症候群の発生を抑制する技術も検討されています5。
これらはいずれも臨床試験に入る前の段階のものですが、他にも世界中の多くの研究機関や製薬企業がCAR-T細胞療法の研究開発を進めています。今後の進展が待ち望まれます。
1 「キムリア点滴静注」審査報告書
http://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/ctp/0002.html
2 富士フイルム・プレスリリース「米国有力ベンチャーキャピタルのVersant社と新会社Century社を設立し他家iPS細胞を用いた次世代がん免疫治療薬の開発を開始」(2019年7月1日)
3 京都大学iPS細胞研究所プレスリリース「京都大学iPS細胞研究所と武田薬品が創製した初のiPS細胞由来CAR-T細胞療法臨床試験に向けた新たなプログラムを開始」(2019年7月16日)https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/190716-150000.html
4 日本医療研究機構プレスリリース「固形がんに対して極めて治療効果の高い免疫機能調整型次世代キメラ抗原受容体発現T細胞『Prime CAR-T細胞』の開発」(2018年3月6日)https://www.amed.go.jp/news/release_20180306-02.html
5 アステラス・プレスリリース「Xyphos Biosciences, Inc.買収に関するお知らせ」(2019年12月27日)https://www.astellas.com/jp/ja/news/15516