がん免疫療法コラム
自然免疫と獲得免疫を兼ねる強力なキラー細胞たち Vol.42
前回、2つのキラー細胞について見て来ました。自然免疫系と獲得免疫系のキラー細胞がそれぞれを補っていると説明しましたが、両方を持ち合わせたら効率が良いのではないと思われる方がいらっしゃるかも知れません。実はまだ、キラー細胞には仲間がおり、その両方を併せ持つ強者のキラー細胞が存在するのです。その名前は、6種複合免疫療法に含まれているナチュラルキラーT細胞(以下、NKT細胞)とδγ(デルタ・ガンマ)T細胞です。どちらもT細胞に分類されます。
◆NKT細胞
このNKT細胞という免疫細胞は、T細胞(ヘルパーT細胞およびキラーT細胞)とNK細胞の両方の性質を持っており、「がん抗原を発現しているがん細胞」にも「がん抗原を発現していないがん細胞」のいずれにも攻撃できます。さらには樹状細胞を成熟させてキラーT細胞の力を増強させ、多量のサイトカインを産生することでNK細胞やマクロファージなどの食細胞を活性化することできます。自分で攻撃ができ、かつ他の免疫細胞にも指令を送ることができる、すごい能力の持ち主です。
血液中のT細胞のわずか0.1%程度しか存在していませんが、発見されてから20年程度しか経っていないこともあり、大きな可能性を秘めた免疫細胞と言えます。
◆δγT細胞
T細胞にも様々な種類がありますが、それを分類する1つの方法として、T細胞に発現している受容体による分類があります。この方法を用いるとT細胞は大きく2つに分かれ、αβ(アルファ・ベータ)T細胞とδγT細胞に分類されます。αβT細胞が大部分を占めており、通常のT細胞はこのαβT細胞です。
それに対してδγT細胞は数としては少ないのですが、αβT細胞とは機能的に大きく異なる特徴を持っています。例えば、「がん細胞」が持つ抗原の認識の仕方などは、自然免疫系の免疫細胞であるNK細胞に特徴が近いのです。つまり、「がん細胞」などの異常な細胞があると即座に排除するように働き、しかも「がん抗原を発現していないがん細胞」を攻撃することができるのです。さらに、NK細胞よりも「がん細胞」を見つける能力が高いと言われています。それはNK細胞とは異なった「がん細胞」を見分けるポイントを持っているからです。
T細胞中に数パーセント程度しか存在しませんが、NKT細胞と同様にポテンシャルが高く、今後に期待の持てる存在として見なされています。
前回のキラーT細胞とNK細胞の組み合わせは、双方の短所を補ったとても良い組み合わせと言えます。しかし、「がん細胞」の中には、正常の細胞が持つとものと同タイプの「抗原」を表面に出しているものも少なくないと言われています。従って、キラーT細胞とNK細胞だけでは、すべての「がん細胞」を排除することは困難です。そこで、T細胞やNK細胞とは異なった方法で「がん細胞」を見つけ出す仕組みを持ち、かつ自然免疫系と獲得免疫系の双方の性質を兼ね備えた強力な攻撃力を持ち合わせる、NKT細胞やδγT細胞が注目されています。
これらの免疫細胞の治療への応用に関しては、6種複合免疫療法のような細胞を培養して体内に戻す養子免疫療法の他にも、CAR-T細胞療法のようにキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるなど、より効果的な免疫細胞療法の開発も試みられています。
参考文献
- 倉持恒雄,がん治療の第四の選択 5種複合免疫療法, 2013
- 河本宏, 実験医学別冊 もっとよくはわかる!免疫学, 2011
- 実験医学増刊 がん免疫療法 腫瘍免疫学の最新知見から治療法のアップデートまで,Vol.34 No.12, p202-206, 2016
- 実験医学増刊 がん免疫療法 腫瘍免疫学の最新知見から治療法のアップデートまで,Vol.34 No.12, p207-210, 2016
- 免疫療法コンシェルジュ, δγ(ガンマ・デルタ)T細胞療法 https://wellbeinglink.com/treatment-map/stage3-immunotherapy/ganmadeltatherapy/