がん免疫療法コラム
「自律神経」と「がん」の密接な関係が明らかに! 《Part.1》
以前、Vol.13“「免疫細胞」と「ストレス」と「自律神経」の話”の中で、「ストレス」と「がん」の関係について記載しました。これは「ストレス」が「がん」に罹患するリスクが上げるというエビデンスに基づいています。しかし、同コラムの中で「自律神経」と「がん」の関係性については間接的な記載に留めていました。なぜなら「自律神経」と「がん」との関係性が明確ではなかったからです。
今月の8日、「自律神経」が「がん」の増殖や転移に関係しているという研究結果が、科学誌「ネイチャーニューロサイエンス」に発表されました。発表したのは岡山大学や国立がん研究センターなどの研究チームです。非常に興味深い論文なので、今回と次回の2回にわたり、この報告について見て行きたいと思います。
◆「自律神経」と「がん」の関係
疫学的に慢性的な「ストレス」が「がん」に罹患するリスクを上げることが報告されており、「ストレス」による「自律神経」への影響が「がん」の発現と何らかの関連を持っているのではないか、という指摘がなされてきました。今回の報告は、その指摘に対する直接的な回答になり得る点が注目に値するところです。
論文ではヒトの乳がん組織とマウスおよびラットの乳がんモデルを用い、以下の点を明らかにしています。
- 自律神経(交感神経および副交感神経)が乳がん組織内に入り込み、「がん」の進展や予後に強く影響する
- ストレスなどの影響による「交感神経」の亢進は「がん」を進展させ、逆に「副交感神経」の亢進は「がん」に対し抑制的に働く
◆「自律神経」と「がん」と「ストレス」の関係
先述の通り、「ストレス」により「がん」のリスクが上昇するとした報告があります。つまり、「ストレス↑」→「がん↑」の関係性が認められています。また、「ストレス」は「交感神経」を刺激するので、この関係を「ストレス↑」→「交感神経↑」とします。そこに「交感神経」が「がん」を進展させるとした結果から「交感神経↑」→「がん↑」の関係が加わります。これらをまとめると以下の図式になります。
- 「ストレス↑」→「交感神経↑」→「がん↑」
また、今回の論文では「副交感神経」が「がん」の増殖を低下させることも確かめられました。従って、「副交感神経」と「がん」との関係は「副交感神経↑」→「がん↓」の関係であることから、以下の図式も考えられます。
- 「リラックス↑」→「副交感神経↑」→「がん↓」
ここで、「自律神経」と「免疫」の関係については調べられていないのだろうか、と疑問を持たれた方もいらっしゃるかも知れません。実はこれについても論文の中で言及されています。
次回は、この辺りの結果について見て行きたいと思います。
参考文献
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- Atsunori K et al., Genetic manipulation of autonomic nerve fiber innervation and activity and its effect on breast cancer progression, Nature Neuroscience, 2019 https://doi.org/10.1038/s41593-019-0430-3
- Song H et al., Perceived stress level and risk of cancer incidence in a Japanese population: the Japan Public Health Center (JPHC)-based Prospective Study, Scientific Reports 7(1), 2017 https://doi.org/10.1038/s41598-017-13362-8