がん免疫療法コラム

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マクロファージ 裏切りのオセロ 

マクロファージは体内に異物が入って来ると自然免疫系の主役として活躍しますが、これは表の顔で、実は裏の顔があるのはご存じでしょうか?何と「がん」と密接な関係を持つマクロファージが存在するのです。これを腫瘍関連マクロファージ(Tumor-associated macrophage、以下TAM)と呼びます。今まで我々の味方として紹介してきましたが、今日からは認識が変わるかもしれません。ブラックなマクロファージの登場です。

◆免疫を抑制するマクロファージ

1863年に「がん」の中に入り込んでいる(浸潤)白血球が発見されて以来、その主要な構成要素であり、「がん組織」に浸潤・集積しているマクロファージはTAMと呼ばれ、研究の対象となってきました。TAMは主に骨髄単球に由来することが知られており、血液に乗って「がん組織」に到達します。そして、近年、TAMは「免疫」を抑制することによって、「がん細胞」の増殖を促進することがわかって来ました。

◆M1マクロファージとM2マクロファージ

TAMには種類があり、大きく分けてM1マクロファージ(以下、M1)とM2マクロファージ(以下、M2)の2種類あると考えられています。

M1は免疫活性能が高く、TNFα、IL-6、IL-12などの炎症性サイトカインを産生します。そして、強い抗菌活性、抗ウイルス活性および抗腫瘍効果を発揮します。
一方、M2はIL-10 やTGF-βなどの抑制性のサイトカインを産生します。これらのマクロファージは極性化という環境に応じて、M1からM2へ、またはその逆に変えることが知られています。つまり、一方では免疫を活性化する形態に、他方では免疫を抑制する形態に変化します。この変化は白石と黒石が裏返っていくオセロゲームを連想させます。

これには理由があります。M1は先に述べた通り、高い免疫活性を有しますが、M1型の状態が長くなると正常な組織に障害を引き起こしてしまいます。しかし、M2に変われば「免疫」活性が抑制されるため、その危険を避けることができます。つまり、自身を変えることでアクセルとブレーキを使い分けています。これには、さすがマクロファージと言いたいところです。

◆TAMのがん微小環境での働き

しかし、そのさすがのマクロファージも「がん微小環境内」に入ってしまうと様子が変わってしまいます。多くの「がん組織」においてTAMの多くはM2であり、免疫に対して抑制的に働きます。そして、線維芽細胞や血管内皮細胞などと共にがん微小環境を構成する主要な細胞として活躍するようになります。血管の新生や「がん」の浸潤、組織の再構築を促進することよって、がん細胞にとって都合の良い環境を整えていきます。「がん組織」では、TAM とがん細胞は近い位置で密着しており、互いに密接な関係を築いていると考えられています。 これも例のごとく、「がん」が上手くマクロファージを利用しているのです。

 

以上のようにTAMは「がん細胞」と密接な関係にあり、「がん」の増殖を手助けしています。しかし、裏を返せばTAMの働きを抑制することができれば、「がん」の治療につながります。TAMのほとんどがM2であるため、このM2の活性を抑制する、またはM1への変換を誘導することができれば、がんの増殖を抑制する効果が得られるはずです。
CSF-1というサイトカインはマクロファージの分化や増殖に関与しており、このCSF-1を阻害するとTAMの数が減少したり、M2からM1にシフトしたりすることが認められています。現在、CSF-1の働きを阻害する抗CSF-1抗体が開発段階にあり、本邦では免疫チェックポイント阻害剤との併用による治験が行われています。

実は、最近になりM1とM2を二分する考え方が再検討されているようです。それはM1に特異的と思われていた性質をM2も有していることがわかって来るなど、「必ずしもM1とM2の性質が綺麗に分かれるものではない」ということが背景にはあるようです。白と黒という単純な関係が少し複雑になる可能性があります。しかし、このTAMが「がん」を助ける働きするという事実に変わりはなく、「がん微小環境」では「がん」が上手く免疫細胞を利用していますが、マクロファージも例外ではないことは記憶に留めていただきたいと思います。

 

参考文献

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