がん免疫療法コラム

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「がん免疫編集」という考え方【がん微小環境の内部環境と免疫抑制】   《Part.4》 Vol.31

前回「がん組織」の中には「がん微小環境」というものが構築され、それが「免疫」の抑制を行っていると説明しました。今回は、「がん微小環境」自体が「免疫」を抑制していることも含めて、「免疫」の抑制についてより詳しく見ていきたいと思います。

◆「がん微小環境」におけるT細胞の三重苦

「がん微小環境」下では「低グルコース」「低pH」「低酸素」の状態にあることが知られています。そして、この状態自体がT細胞の働きを阻害します。また、「がん」はこの劣悪な環境に適応することで「免疫」に対してだけではなく、治療に対する抵抗性を獲得していると考えられています。
では、なぜ、そのような環境状態になるのかを各々見て行きましょう。

◇低グルコース状態

T細胞はグルコースの代謝を通して活性化、分化および増殖しますが、「がん微小環境」内ではグルコースの濃度が低いことが知られています。これは「がん」自身がグルコースを分解してエネルギーを作り出しているため(解糖系亢進)、その濃度が低くなっていると考えられています。

◇低酸素状態

「がん細胞」の増殖が盛んであることと、血管からの距離が遠くなることによって酸素の供給が不足し、低酸素状態になっていると考えられています。

◇低pH状態

通常の組織においてpH は7.4に保たれていますが、「がん細胞」ではpH 6.8程度まで低下することが報告されています。これは先述の「がん細胞」による解糖系亢進と低酸素状態の結果として引き起こされるものと考えられています。

 

◆「免疫抑制」作戦

◇援軍との共闘による全身の抑制

まずは、免疫抑制機能を持った細胞を「がん組織」の内部や周囲に呼び寄せて免疫を抑制する「共闘作戦」です。免疫抑制機能を持った細胞には、制御性T細胞(Treg)や骨髄由来抑制細胞(MDSC)などがあります(図1)。これらの細胞によって「がん」局所だけでなく、からだ全体の「免疫」抑制状態を引き起こすことが明らかになってきています。外部から細胞を呼び寄せ、その協力を得ながら「免疫」が抑制された環境作りが行われていきます。

◇ブレーキを使った局所の抑制

次は「がん微小環境」内で認められる局所での抑制作用です(図1)。「がん微小環境」には、がん細胞を攻めるために侵入してきたT細胞を無力化する仕組みが備わっています。その仕組みの一つが免疫チェックポイント分子です。免疫チェックポイント分子とは、「免疫寛容」を担う一つの機構です。しかし、またしても「がん」はこれを悪用し、「免疫」に抑制をかけてしまいます。こうして「がん」は局所的においてもT細胞を無力化して、攻撃の芽を摘んでしまいます。

「がん微小環境」内でのマクロファージの働きには驚くかも知れません。免疫細胞の代表格であるマクロファージが、「がん微小環境」の中で腫瘍関連マクロファージ(TAM)と呼ばれているマクロファージに変えられてしまいます。そして何とこれが「免疫」を抑え、「がん」を助ける働きをしてしまうのです。これも免疫チェックポイント分子と同じように、「がん」にうまく利用されてしまっているのです。「がん」の悪知恵も相当です。

図1 「がん」による局所および全身の免疫抑制(再掲)

 

上記以外にも「サイトカインによる免疫抑制機構」も関与しています。これは「がん細胞」の遺伝子異常を起点として起きると考えられており、IL-10、IL-6、トランスフォーミング成長因子(TGFβ)や血管内皮増殖因子(VEGF)などのサイトカインを分泌します。さらに、「免疫」を抑制するインドールアミン酸添加酵素(IDO)などの酵素も分泌します。
しかし、このサイトカインという物質は、少し複雑な一面を持っています。「がん微小環境」の違いにより、同一のサイトカインが免疫を抑制したり、逆に活性化したりします。サイトカインの中でもアクセルとブレーキの関係があるようです。例のごとく、こうした物質を「がん」は上手に利用しています。

これらの方法を駆使して「がん」は自分達の住みやすい環境を作っていきます。
しかし、このような環境の中でも「免疫細胞」に戦ってもらい、「がん」の増殖を防いでもらわないといけません。そのためには治療という形で、如何に免疫抑制を解除するかが大きな焦点となります。この点においては免疫チェックポイント阻害剤を初めとして、現在、様々な種類の治療法が開発されつつあり、また追って見て行きたいと思います。一先ず、「がん免疫編集」に関しては今回を最終回とします。

 

参考文献

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