がん免疫療法コラム
「がん免疫編集」という考え方 【がん免疫監視の役割 】 《Part.1》
今回から「がん免疫編集」という考え方に挑戦してみたいと思います。まだ説の段階ですが、徐々に明らかにされつつあります。今ではこの考え方を基盤にして新しいがん治療が考案されています。
まず、その基になっているのが「がん免疫監視」という考え方です。「がん」は体内で発生しますが、人がすぐに「がん」に侵されることがないのは、この「がん免疫監視」というシステムが機能しているからです。
しかし、場合によっては「がん」に侵されてしまう場合もあります。このような「がん」に侵されてしまうケースも考慮して、「がん免疫監視」をさらに発展させた「がん免疫編集」という考え方があります。今回はこの「がん免疫監視」と「がん免疫編集」の大枠について見て行きたいと思います。
■がん免疫監視とは
「免疫」とはご存じの通り体内に備わった防衛システムですが、外敵の場合には、第一の防衛システムである「皮膚」や「粘膜」による免疫機構が働きます。しかし、体内で発生するものについては、この防衛システムにひっかかりません。敵となる異物が密かに体内で発生し、知らず知らずに生体内を蝕んでいき、病気となって症状が現れる様を想像すると、やはり得も言われぬ不気味さと怖さを感じます。このような体内で発生する異物の代表格が「がん」です。
しかし、「免疫」もこの事実は既に把握しており、「免疫」の持つシステムの一つである「免疫監視」が役に立っています。このシステムを使って、「がん」や「がんの元」などの異物の存在を監視し、それらが発現した際には「排除」します。体内では1日に数千個単位で、遺伝子に異常が生じた「がんの元」となる細胞ができることが知られています。つまり、「免疫監視」システムが働き、それらを「排除」しているからこそ、簡単に「がん」に罹ることがないのです。
■がん免疫編集とは
しかし、がん患者は増えており、日本人の2人に1人が「がん」になると言われています。「がん」は珍しい病気ではなく、誰もが罹る可能性のある病気になりつつあります。「がん」になるということは、残念ながら「免疫監視」をすり抜ける「がん」や「がんの元」が存在することを意味しています。
実は、この「免疫監視」システムが存在することによって、逆に「がん」に知恵を与え、増殖の機会をも増長させる側面もあるのです。「がん」は知恵者です。生体内のシステムを熟知しており、巧みに利用しているのです。
この免疫による「がん」の排除システムである「免疫監視」に加え、「がん」がこの「免疫監視」をすり抜け、増殖に至る過程を盛り込んだ一連の流れを「がん免疫編集」と呼びます。
この「がん免疫編集」は、冒頭にも述べたようにまだ仮説の段階ですが、免疫チェックポイント阻害剤が明確な臨床効果を示していることなどからもその存在が明らかになりつつあります。「がん免疫編集」は3段階に層別されて説明されています。次回はその第1段階について見て行きたいと思います。