がん免疫療法コラム

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がんと栄養不良 – がん悪液質とは何か? –  《Part.2》 

前回は「がん悪液質」とはどのような状態なのかについて見ました。今回は、その病期と治療法について見て行きましょう。

◆病期について

栄養状態が元に戻る病状(可逆的な病状)から通常の栄養療法では改善しない病状(不可逆的な病状)へと移行します。
分類として、
① 前悪液質(体重減少[5%以下]に食欲不振と代謝異常を伴う)
② 悪液質(体重減少[5%以上]に経口摂取不良、全身炎症を伴う)
③ 不可逆的悪液質
という3段階に分けられています。
特に問題となるのが3段階目の「③不可逆的悪液質」です。これは、いくら栄養サポートを行っても状態は改善せず、栄養障害が元に戻らない状態です。予後は3か月以内と考えられていることから、ここに至らないようにすることが、治療を行う際の大きなポイントとされています。

 

◆治療法について

□現在の治療法

「前悪液質」および「悪液質」における主な治療法は、栄養療法です。栄養を摂取するルートとして、可能な限り経口・経腸的に栄養を取るようにし、これができない場合にのみ、静脈に管を通し、そこから栄養を取るようにします。
しかし、ただ単に栄養を補給すれば良いというものではないようです。状態によっては栄養過多になってしまうこともあり、補給する栄養を積極的に絞っていくこともあるようです。「不可逆的悪液質」の場合には、栄養投与に反応しない段階であり、摂取する栄養の量は徐々に減らしていくことになります。

「がん悪液質」は、がんの進行に伴い悪化することが認められている一方、栄養状態の悪化や全身性の慢性炎症ががんの進行に関与していることが明らかになりつつあります。つまり、「がん悪液質の悪化」と「がんの進行」が相乗的に状態を悪化させているものと推察されます。従って、栄養療法単独での回復は困難であるため、がん進行のコントロールを試みながら、軽い運動や抗炎症療法など加えるなど集学的な治療を行う必要があると考えられています。

□治療薬

残念ながら、現在、「がん悪液質」を適応とする薬剤はありませんが、グレリン様作用薬である「アナモレリン塩酸塩(以下、アナモレリン)」が効能・効果を「がん悪液質における体重減少及び食欲不振の改善」として申請中です(2018年11月27日)。「がん悪液質」に対する初めての治療薬として期待されており、順調に審議が進めば本年中には承認が得られるものと思われます。

グレリンは主に胃から分泌されるペプチドホルモンで、食欲の増進と摂食量を増加させます。また、体のエネルギーを作る際に重要な役割を果たす成長ホルモンの分泌の促進や抗炎症作用、筋蛋白質分解の抑制および筋蛋白質合成の促進作用が認められています。「アナモレリン」はこのグレリンと同じような作用を発揮します。

「アナモレリン」を用いて、進行した肺がん(ONO-7643-04試験)と進行した大腸、胃、膵臓がん(ONO-7643-05試験)を対象に2つの臨床試験が行われました。1日1回100㎎を12週間服用した後、脂肪以外の体重(除脂肪体重)の変化を主要項目として評価しています。いずれの試験においても統計的に有意な体重増加が認められています。

 

上記の他にも、海外ではエノボサームという薬剤が開発中です。筋肉や骨に働きかけ、筋力および身体機能の増加させる作用を持つ薬剤です。また、メキシコの国立がん研究所の研究グループが「nabilone」という主に「制吐剤」として使われている薬剤を用いて、肺がん患者を対象に「栄養状態」などに対する検討結果を報告しています。それによると「nabilone」によりカロリー摂取量が増加し、統計的に有意な炭水化物摂取量の増加が認められたそうです。
先述の通り病態については不明な点が多いのですが、基礎研究ならび臨床研究が進められており、病態のさらなる解明と新たな治療の早期開発が待たれるところです。

 

参考文献

  1. がん治療.com, がん悪液質症状や治療、ステージなど https://www.ganchiryo.com/live/cancer_cachexia.php
  2. Egidio Del Fabbro and Florian Strasser, がん悪液質:機序と治療の進歩, 2018  http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2018/05/Cancer-Cachexia-Booklet_201805.pdf
  3. がん悪液質ハンドブック ―「がん悪液質:機序と治療の進歩」を臨床に役立てるために http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/cachexia_handbook-4.pdf
  4. 小野薬品工業株式会社 プレスリリース 2018.11.27
  5. Care Net, 日本人肺がんの悪液質に対するanamorelin二重盲検試験の結果(ONO-7643-04), https://www.carenet.com/news/general/carenet/45193
  6. Care Net, anamorelin、日本人消化器がんの悪液質にも効果(ONO-7643-05)/日本臨床腫瘍学会, https://www.carenet.com/news/general/carenet/46406
  7. Turcott JG, et al. Support Care Cancer., 26, 3029-3038, 2018 https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00520-018-4154-9

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